私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 その後工藤と高野はウォータースライダーを降りてくるで無く、階段から駆け降りて私達と合流を果たした。
 足を滑らせて二人して落ちていく様を目の当たりにしたら、流石に後を追い掛ける気にはなれなかったのだろう。
 それでなくともあの高さから滑り降りるのには相当の勇気がいるのだと思う。高野などは絶対に拒否するに違いないと思った。
 あの後皆で集まってからは椎名は普段通りであった。
 まるで何事も無かったかのように私とも普通に接している。
 まあ急に他所他所しくなられてもそれはそれで困りものなのでそうしてほしいとは思うのだが、椎名のそう言った部分には彼女の心持ちの不鮮明さを見せつけられているようで、もどかしくも思ってしまうのだ。
 そしてそんな気持ちを抱いてしまう自分自身にため息が漏れた。
 その後程無くしてプールからは退出する事になった。
 ここまでで正直私の消耗はかなりのものであった。
 普段から滅多にする事の無い経験、というか初めてのこの経験に心の損耗は多大で、これからが勉強会本番だという現実に眩暈がしそうになるのである。
 皆で軽く食事をし、再び高野の家に戻ってきた頃には昼過ぎであった。


「さて、では勉強会に突入だ。やるぞ皆」


 ここに来るまでがすごく長かったように思うが、気を取り直して頑張ろうと思う。私は持ってきた教材を鞄の中から取り出しテーブルの上に広げ始めた。
 だが実際動いているのは私と高野だけ。


「あの……私……ちょっと昼寝希望したいなーなんて?」


 案の定椎名と工藤は高野の家に着くなり部屋の角にへたり込んでしまった。適度に運動した後に昼食を取ったのだ。そうもなるだろう。ましてや勉強をする事に抵抗がある人間ならば尚更だ。
 放っておけばこのまま横になって寝てしまうのではないかと思う程二人共寛くつろいでしまっている。
 私はそんな中どうしても椎名の方へと目が行ってしまう。
 横になった彼女の姿はこの角度から見るとそれは刺激的で、本人にその自覚が無い事がまた質が悪い。
 特にあの臀部から脚先に掛けての破壊力は半端無い。彼女の足が動く度に罪悪感のような胸をチクチクとついばむような感情が胸に巻き起こるのである。
 女子が薄着でそのような無防備な格好をするものでは無いと思いつつ、それを口には出せずはたまた直視する事も出来ず、ただただ口噤つぐんでしまうのだ。


「駄目だ。休憩するにしてもまず一時間ほど勉強してからにするべきだ。何のために集まったと思っている」


 私はそんな心のせめぎ合いは尾首にも出さず、ただ淡々と言葉を紡いでいく事に集中する。
 本当に今日はペースを乱されっぱなしなのだ。
 ここらで軌道修正を謀らねばそれこそ今日何のために集まったのかという意味が無くなってしまう。


「じゃ、じゃあわかった! 先に苦手分野克服会にしましょう!?1人30分ずつ隣の部屋で隼人くんとマンツーマンで教えてもらうの! それよくない!?」


「……」


 私は再び言葉に詰まる。そして色々と打算的な考えが頭の中に巡って、一気にぱんぱんになった。
 正直面倒だ。勉強以外の事も考えてしまって集中出来ないかもしれないとも思ってしまう。
 だがそんな雑念に縛られるようではこの先やっていけないではないかとも思う。
 何よりこれ以上あーだこーだとやり取りする事も自分の中で憚られると思ってしまったのだ。


「分かったのだ。では高野、隣の部屋を使わせてもらうぞ。一緒に来てくれ」


「え、私? 私からなの!?」


 高野はびくんと肩を震わせた。いきなり自分に話が振られると思っていなかったのか、今まで黙ってやり取りを見守っていた高野だが、突然慌てふためいたように口をぱくぱくしている。
 そんな彼女を見て何故か口元が綻んでしまう。


「そうだ。隣は高野の部屋だし、そもそも後の二人は昼寝希望なのだ。当然そうなると思うのだが?」


 隣で「バカねえ……昼寝なんてするわけないじゃん」とか言っている椎名は無視した。
 高野は少し困ったような表情を見せたかと思ったが次の瞬間には笑顔を見せてくれた。
 



「うん、わかった。じゃあこのまま移動しようか。数学なんだけど、いいかな?」


「ああ、構わないぞ」


「おー行ってこい行ってこい! うっかり一時間でもいーぞ」


「じゃあお2人さん、行ってらっしゃい!」


 こうして私と高野は二人に見送られ、隣の高野の部屋で二人きりで勉強する事になったのだった。

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