私のわがままな自己主張 (改訂版)
 先に言っておく。私は反対したのだ。
 皆で勉強会の日取りを決め、いざ高野の家でテスト勉強頑張ろうという話になった直後の事だった。椎名がこんな事を言いだしたのだ。
「私、皆でプール行きたい!」
 いや、ふざけるな。とは流石に口には出せなかった。
 正直テスト前の勉強会なのだから、何時から何時くらいまで勉強しようとか、どういう形式でやるかとか。とにかくどうこの短期間で学力を上げるかと。そういう会話を想像するものだ。
 だが椎名はまるで遠足にでも行くかのように浮き足だって、はしゃいでいるように見えた。
「おおっ、いいねーっ!」
 そしてすかさず入った合いの手は工藤のこんな激しく同意を示すもので。私は頭が痛くなってくる。
「いや、待て待て。あくまでも趣旨は勉強会なのだぞ。どうしてそうなる」
 堪らず否定の声を上げるが椎名は目を大きく見開き信じられないといった風な表情を見せた。おいおい何だその反応は。
「嘘でしょ……私そんな朝から晩までずぅ~っと勉強し続ける自信ない! 息も詰まっちゃいそうだし、軽く運動してから勉強した方が集中できると思うの! 部活も休みだし、体が鈍らないように動かしたいの! お願い隼人くん!」
 そう言って私を拝み倒す椎名。そんな懇願するような目で見られたら全く否定出来る気がしない。
 というか球技大会のあの一件以来、椎名は私の事を名前で呼ぶようになった。
 別にだからどうという訳でも無い事なのかもしれないが、少し、いや、かなり恥ずかしい。
「わ……私はちょっと……どうしようかな。あんまりそういうとこ行かないから、水着とか持ってないし。」
 その時助け船のように高野が微妙な反応を見せた。
 流石に四人中二人が反対すれぱこの話はお流れになる可能性が高い。それに否定する側が工藤ならいざ知らず、高野というのも説得力が強い。
 このまま無かった事になるかと思われたその瞬間、すかさず椎名が動いた。
「美奈、ちょっと! こっち来て! ごにょごにょ……」
 何やら高野の耳元で内緒話を始めた二人。椎名が話を進めていく内に高野の表情がみるみる赤くなっていく。
「え……?そんな……こと……」
 椎名が一頻り話すと高野は俯き何やら考えているようであった。
 何か葛藤しているような。時折「あ……う……」と一人ごちながらたまにこちらを伺い見るような仕草に目が合ったりもして。
「……あの……私、……行ってみようかな……」
「何!?」
 不意に放たれた言葉に私は耳を疑う。
 椎名に何を言われたのかは全く理解出来ないが、ちらと椎名の方を見やると彼女は腕を組んで完全に勝ち誇ったような顔をしていた。こうなってしまっては私には最早どうする事も出来ない。一人だけ駄々を捏ねてもそれは最早大人気ないだけのように思えてしまう。
 私は大きくため息を吐き出した。
「……わかった。ただし、長くても2時間としよう。朝集まって、昼には戻って勉強開始だ。そうしなければ勉強会の意味が無い」
 私の言葉にハイタッチを交わす椎名と工藤の姿が凄く目に焼き付いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 そうして朝高野の家に一度集まった後、勉強道具等を置かせてもらい、私達は駅からバスで二十分程行った所にある市民プールへとやって来たのだった。
 今は着替えを終え、工藤と共に入り口近くで椎名と高野を待っている所だ。
 空は晴れやか。梅雨もそろそろ明けるのだろう。私の心とは全くマッチングしない。憂鬱だ。
「あー、まだかなー! マジで俺たち夏をエンジョイしてるって感じだよなー!」
 いつにも増してテンションの高い工藤。まあ無理も無い。これから同い年の女の子の水着姿が拝めるのだから。
 かくいう私も何だかんだ緊張はしていた。正直心臓がバクバク高鳴って苦しい。出来る事なら帰ってしまいたいくらいだ。
 今更ながら何故もっと反対しておかなかったのかと後悔し始めていた。
 別に彼女達の水着姿に興味が無い訳では無い。寧ろ楽しみにしていると言っても差し支え無い程だ。
 だが逆にそう思ってしまっている不純な自分自身に嫌気が差してしまうのだ。
 これは普通に考えれば健全と言えるのかもしれないが、こういったやましい気持ちをあの二人に対して抱いてしまう自分がどうしようも無く嫌なのだ。
 私も結局工藤と何ら変わりの無い、欲望にまみれた健全な男子高校生という訳だ。
 こんなに浮き足だってしまい、平静を装っている風な自分が情けなくなる。
「君島! ありがとなっ! 恩に切るぜっ!」
 私の心の内など全く知りもしない工藤は私に謝辞を述べてくる。
 今更感謝される程の事でも無い。この流れは別に私が作り出したものでも何でも無いのだから。
「いや、私は反対した。恩に切るなら言い出しっぺの椎名に言うべきではないのか?」
 私の正直な気持ちを吐露すると、工藤は大きく首を振った。
「いやちげーよ君島! そういうことじゃなくてさ! 今までのことも含めてなんだって! ここまでおまえが繋げてくれた縁じゃねーか! ……なんか今まで言うタイミング逃しちまってたけどさ、俺、お前にはほんと感謝してんだわ」
 何とも工藤らしいタイミングだと思った。こんな場所でするような話なのだろうか。工藤は頭を書きながら目を逸らして空を見上げている。
 まあ要するに照れているのだろう。
 工藤は一度人差し指で鼻を啜った。
「お前のお陰で高野と繋がりが出来てさ、最近は普通にメールしたりして、確かに最初は意外に可愛いなーなんてだけだったんだ」
 目を逸らしたのはほんの数秒。今は真っ直ぐ私の目を見ている。
 ドキリとした。工藤のこんな真剣な表情、初めての事で落ち着かない。
「話してみるとすげーいい子だよな。ちゃんと人の話に真面目に向き合ってくれるし、まあ冗談も真に受けちゃって驚かれたりすることもあるけどさ。ま、そこがいーっつーか?」
 工藤は高野のことを、彼女に対する思いを私に粛々と語る。
 そして少し間を置いて。その間ずっと瞳を見続けられて。私は気づかない内に両の拳を握り締めていた。
「俺、この夏が終わるまでに高野に告白しようと思う」
 予期していたような、それでいて不意打ちのような工藤の言葉に、私は何の言葉も浮かばない。浮かんでくれない。
「そうなのか」
 だがそれでも無言という訳にもいかず、絞り出すように一言だけ返す。それがせめてもの反抗だとでも言いたいのだろうか。
 そしてせめて言葉尻だけは強くしようと語尾だけははっきりと伝えた。
 その結果思いの外大きな声を出してしまい、そんな自分に少し驚く。勿論そんな心情は尾首にも出さないが。
「高野ならもし駄目でも、俺の気持ちを真剣に受け止めてくれると思うから。好きになったことを後悔するとか絶対ないと思うんだ。うまくいったらいったで、すげー大事にしたいって思えるんだよ」
 私は正直、最早工藤の話が全く頭に入らなくなっていた。ただ何となく言いたい事は解る。工藤の言葉はおおよそ正しい。というか今の彼がこの流れの中で正しく無い事を言う筈が無いと思ってしまっている。
 そして高野の事をそこまで真剣に考えていた事がショックだったのだろうか。それとも工藤の考え方を否定したくてもしきれない自分に戸惑っているのだろうか。
 胸の中がもやもやするのだ。
 どうしようもなくやるせない想いが込み上げてその不快感に押し潰されてしまいそうだ。
 出来る事なら否定してしまいたい。
 ……否定?
 いや待て。
 今更何を否定する事がある。
 工藤の高野に対する気持ちや高野に対する考え方はおおよそ正しいのだ。そう感じているのだ。思っていた以上に工藤は高野の事をしっかりと見ていたのだ。ただそれだけなのだ。
 工藤は本当に高野の事が好きなのだ。心から一緒にいたいと思えているのだ。
 それは本来素晴らしい事で、祝福してあげるべき事で。
 いつもお茶ら気た工藤だからこそ、この絞り出す想いは本物で、真実味があるのだと感じられた。
「君島、いいよな?」
 最後に工藤は私に対し、確認を取るように問い掛けてきた。
 初めてでは無い何度目かの確認。私の心の奥を見透かすように覗き込んでくる工藤の熱を帯びた瞳。
 そんな目で見られたら私は決してその視線から逃れる事など出来はしない。
 そしてこの先の私の行動は決まっている。一度だけ、工藤に対して黙って頷く事。
 ただただ、それだけなのだ。
 皆で勉強会の日取りを決め、いざ高野の家でテスト勉強頑張ろうという話になった直後の事だった。椎名がこんな事を言いだしたのだ。
「私、皆でプール行きたい!」
 いや、ふざけるな。とは流石に口には出せなかった。
 正直テスト前の勉強会なのだから、何時から何時くらいまで勉強しようとか、どういう形式でやるかとか。とにかくどうこの短期間で学力を上げるかと。そういう会話を想像するものだ。
 だが椎名はまるで遠足にでも行くかのように浮き足だって、はしゃいでいるように見えた。
「おおっ、いいねーっ!」
 そしてすかさず入った合いの手は工藤のこんな激しく同意を示すもので。私は頭が痛くなってくる。
「いや、待て待て。あくまでも趣旨は勉強会なのだぞ。どうしてそうなる」
 堪らず否定の声を上げるが椎名は目を大きく見開き信じられないといった風な表情を見せた。おいおい何だその反応は。
「嘘でしょ……私そんな朝から晩までずぅ~っと勉強し続ける自信ない! 息も詰まっちゃいそうだし、軽く運動してから勉強した方が集中できると思うの! 部活も休みだし、体が鈍らないように動かしたいの! お願い隼人くん!」
 そう言って私を拝み倒す椎名。そんな懇願するような目で見られたら全く否定出来る気がしない。
 というか球技大会のあの一件以来、椎名は私の事を名前で呼ぶようになった。
 別にだからどうという訳でも無い事なのかもしれないが、少し、いや、かなり恥ずかしい。
「わ……私はちょっと……どうしようかな。あんまりそういうとこ行かないから、水着とか持ってないし。」
 その時助け船のように高野が微妙な反応を見せた。
 流石に四人中二人が反対すれぱこの話はお流れになる可能性が高い。それに否定する側が工藤ならいざ知らず、高野というのも説得力が強い。
 このまま無かった事になるかと思われたその瞬間、すかさず椎名が動いた。
「美奈、ちょっと! こっち来て! ごにょごにょ……」
 何やら高野の耳元で内緒話を始めた二人。椎名が話を進めていく内に高野の表情がみるみる赤くなっていく。
「え……?そんな……こと……」
 椎名が一頻り話すと高野は俯き何やら考えているようであった。
 何か葛藤しているような。時折「あ……う……」と一人ごちながらたまにこちらを伺い見るような仕草に目が合ったりもして。
「……あの……私、……行ってみようかな……」
「何!?」
 不意に放たれた言葉に私は耳を疑う。
 椎名に何を言われたのかは全く理解出来ないが、ちらと椎名の方を見やると彼女は腕を組んで完全に勝ち誇ったような顔をしていた。こうなってしまっては私には最早どうする事も出来ない。一人だけ駄々を捏ねてもそれは最早大人気ないだけのように思えてしまう。
 私は大きくため息を吐き出した。
「……わかった。ただし、長くても2時間としよう。朝集まって、昼には戻って勉強開始だ。そうしなければ勉強会の意味が無い」
 私の言葉にハイタッチを交わす椎名と工藤の姿が凄く目に焼き付いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 そうして朝高野の家に一度集まった後、勉強道具等を置かせてもらい、私達は駅からバスで二十分程行った所にある市民プールへとやって来たのだった。
 今は着替えを終え、工藤と共に入り口近くで椎名と高野を待っている所だ。
 空は晴れやか。梅雨もそろそろ明けるのだろう。私の心とは全くマッチングしない。憂鬱だ。
「あー、まだかなー! マジで俺たち夏をエンジョイしてるって感じだよなー!」
 いつにも増してテンションの高い工藤。まあ無理も無い。これから同い年の女の子の水着姿が拝めるのだから。
 かくいう私も何だかんだ緊張はしていた。正直心臓がバクバク高鳴って苦しい。出来る事なら帰ってしまいたいくらいだ。
 今更ながら何故もっと反対しておかなかったのかと後悔し始めていた。
 別に彼女達の水着姿に興味が無い訳では無い。寧ろ楽しみにしていると言っても差し支え無い程だ。
 だが逆にそう思ってしまっている不純な自分自身に嫌気が差してしまうのだ。
 これは普通に考えれば健全と言えるのかもしれないが、こういったやましい気持ちをあの二人に対して抱いてしまう自分がどうしようも無く嫌なのだ。
 私も結局工藤と何ら変わりの無い、欲望にまみれた健全な男子高校生という訳だ。
 こんなに浮き足だってしまい、平静を装っている風な自分が情けなくなる。
「君島! ありがとなっ! 恩に切るぜっ!」
 私の心の内など全く知りもしない工藤は私に謝辞を述べてくる。
 今更感謝される程の事でも無い。この流れは別に私が作り出したものでも何でも無いのだから。
「いや、私は反対した。恩に切るなら言い出しっぺの椎名に言うべきではないのか?」
 私の正直な気持ちを吐露すると、工藤は大きく首を振った。
「いやちげーよ君島! そういうことじゃなくてさ! 今までのことも含めてなんだって! ここまでおまえが繋げてくれた縁じゃねーか! ……なんか今まで言うタイミング逃しちまってたけどさ、俺、お前にはほんと感謝してんだわ」
 何とも工藤らしいタイミングだと思った。こんな場所でするような話なのだろうか。工藤は頭を書きながら目を逸らして空を見上げている。
 まあ要するに照れているのだろう。
 工藤は一度人差し指で鼻を啜った。
「お前のお陰で高野と繋がりが出来てさ、最近は普通にメールしたりして、確かに最初は意外に可愛いなーなんてだけだったんだ」
 目を逸らしたのはほんの数秒。今は真っ直ぐ私の目を見ている。
 ドキリとした。工藤のこんな真剣な表情、初めての事で落ち着かない。
「話してみるとすげーいい子だよな。ちゃんと人の話に真面目に向き合ってくれるし、まあ冗談も真に受けちゃって驚かれたりすることもあるけどさ。ま、そこがいーっつーか?」
 工藤は高野のことを、彼女に対する思いを私に粛々と語る。
 そして少し間を置いて。その間ずっと瞳を見続けられて。私は気づかない内に両の拳を握り締めていた。
「俺、この夏が終わるまでに高野に告白しようと思う」
 予期していたような、それでいて不意打ちのような工藤の言葉に、私は何の言葉も浮かばない。浮かんでくれない。
「そうなのか」
 だがそれでも無言という訳にもいかず、絞り出すように一言だけ返す。それがせめてもの反抗だとでも言いたいのだろうか。
 そしてせめて言葉尻だけは強くしようと語尾だけははっきりと伝えた。
 その結果思いの外大きな声を出してしまい、そんな自分に少し驚く。勿論そんな心情は尾首にも出さないが。
「高野ならもし駄目でも、俺の気持ちを真剣に受け止めてくれると思うから。好きになったことを後悔するとか絶対ないと思うんだ。うまくいったらいったで、すげー大事にしたいって思えるんだよ」
 私は正直、最早工藤の話が全く頭に入らなくなっていた。ただ何となく言いたい事は解る。工藤の言葉はおおよそ正しい。というか今の彼がこの流れの中で正しく無い事を言う筈が無いと思ってしまっている。
 そして高野の事をそこまで真剣に考えていた事がショックだったのだろうか。それとも工藤の考え方を否定したくてもしきれない自分に戸惑っているのだろうか。
 胸の中がもやもやするのだ。
 どうしようもなくやるせない想いが込み上げてその不快感に押し潰されてしまいそうだ。
 出来る事なら否定してしまいたい。
 ……否定?
 いや待て。
 今更何を否定する事がある。
 工藤の高野に対する気持ちや高野に対する考え方はおおよそ正しいのだ。そう感じているのだ。思っていた以上に工藤は高野の事をしっかりと見ていたのだ。ただそれだけなのだ。
 工藤は本当に高野の事が好きなのだ。心から一緒にいたいと思えているのだ。
 それは本来素晴らしい事で、祝福してあげるべき事で。
 いつもお茶ら気た工藤だからこそ、この絞り出す想いは本物で、真実味があるのだと感じられた。
「君島、いいよな?」
 最後に工藤は私に対し、確認を取るように問い掛けてきた。
 初めてでは無い何度目かの確認。私の心の奥を見透かすように覗き込んでくる工藤の熱を帯びた瞳。
 そんな目で見られたら私は決してその視線から逃れる事など出来はしない。
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