私のわがままな自己主張 (改訂版)
 土曜日になり、約束の勉強会の日。
 私は若干緊張の面持ちであった。というのも勉強会の場所というのが私の予想の斜め上を行ったからだ。
「あらいらっしゃい! 皆よく来たわね! めぐみちゃん、また会えて嬉しいわ!」
 高野の家に着くと、母親らしき人が玄関口で出迎えてくれた。
 うろ覚えだが小学校三年生の時、高野とは同じクラスになった事があったのだ。その時の授業参観の時、恐らくこの人とは会っている。と言っても見た、と言った方が正しいか。正直よく覚えていない。
 勉強会の場所。
 私としては学校の図書室や近所の図書館辺りが妥当だろうと考えていただけに高野にこの提案を持ち掛けられた時は衝撃が走ったものだ。
 しかも工藤や私の部屋というのならまだ解る気がするが、女の子の部屋とは。正直同級生の親と会うという事は自分としてはかなりハードルが高く、当日まで、というか今この瞬間もかなり憂鬱であったが、高野がどうしてもと言うので了承したのだ。
 それに一度勉強会を了承した以上、今更断る訳にも行かない。そんな妙な責任感が頭を占めて結局覚悟を決めたのだった。
「美奈ママ! 私も会いたかったです!」
「私もよっ! めぐみちゃん!」
 そう言って二人は会うなりがっしりと抱き合った。第一印象で高野とは違い元気なお母さんだなと思う。この二人の方が親子という方がしっくりきてしまいそうな息の合いようだった。
 そう思いつつも最近の高野の様子を鑑みて彼女の本来の明るさや朗らかさのルーツはここにあるのかとも納得してしまう自分もいたが。
「美奈ママ! あと今日は手土産持ってきました!」
「あら、めぐみちゃんありがとう!そんなわざわざ気を遣ってくれなくてもいいのに」
「いえいえっ! 前回手ぶらで来ちゃったもんだから。そのリベンジです!」
 何と戦っているのか良く分からなかったが、椎名はそう言い高野のお母さんに紙袋を渡した。
「さてさて。では家の娘が選んだ男の子はどんな子たちなのかな?」
 不意に高野のお母さんが私達の方を向き、そう切り出してきた。
 それにいち早く反応したのは工藤だ。まるで待ってましたとばかり私の横を通り過ぎ前に出た。
「あのっ! 俺、工藤って言います! お母さまっ! この度はお日柄もよくっ!」
「ふふっ、工藤くんね? 思った通りの元気な子。私、そういう子好きよ?」
「あっ、ありがとうございます! うしっ!」
 にこやかに賛辞を述べられガッツポーズを決める工藤。相変わらず大袈裟な奴だ。まあそれでも好きな女の子の母親に気に入られてそうなる気持ちが全く分からない訳では無いが。
「それで? そっちの子は?」
 工藤を横目でちらりと見やる私に、高野の母親は視線を向けてきた。私はスッと腰を折って挨拶する。
「初めまして、君島と言います。高野美奈さんとは仲良くさせていただいております。今日はよろしくお願いします。」
 一応初めてではないのだが、お互い覚えていないだろうから、初めましてと挨拶した。
「君島……あら、あなたひょっとして君島隼人くん?」
 高野の母親は私の顔を見て暫し思案したように立ち止まり、そして私のフルネームを言い当てた。どうやら私の事を知っているようであった。
「ああ、実は小学生の時に美奈さんと同じクラスだった事がありました。初めてでは無かったのですが、もう覚えていらっしゃらないかと思いまして。失礼しました。」
「え、そうなの? ふーん、私はてっきり……。まあ細かいことはいいわ。隼人くんも今日は楽しんでいってね!」
 高野の母親はしっくりと来ない反応を見せた。だが然程追求する事でも無い。別段気にはならなかったが、それよりも本日ここに私達を呼んだ張本人、高野がまだ姿を見せていない。一体どうしたというのだろう。
「なんだかあの子、ちょっといつもと雰囲気違うから、恥ずかしがってるみたいなのよ」
 にっこりと言う高野の母親。まるで私は心を読まれた心持ちがして少々落ち着かない気分になった。
「お母さん! 私が連れてきます!」
 母親の言葉に椎名は得心がいったのか、そそくさと家に上がり込んで階段を上がっていく音がドタバタとする。高野の部屋は二階にあるのだろう。
 そして扉が開閉する音が慌ただしく聞こえて程無くして二つの足音が下りてきた。玄関の扉が開かれ椎名が顔を覗かせる。
「おまたせー! フッフッフッ。男どもっ、驚かないでね! 美奈、ほらっ、出てきなさいよっ! とっても可愛いわよ!」
「うう……そんなこと言わないでよ……恥ずかしい」
 椎名に言われて玄関からすごすごと出て来た人物。
 最初それが高野だと分かるまでに数秒の時間を要した。
「あ……あ……」
 工藤が声も出せずぷるぷると立ち竦んでいる。その気持ちも何となく分からないでも無い。
 一言で言うと高野がすごく女の子らしい格好で立っていたのだ。
 いつもしている眼鏡を外し、おそらくコンタクトにしたのだろう。
 眼鏡で隠れて分からなかった長い睫毛やぱっちりした目が露になった。
 その長い髪は頭の上でお団子にしており小顔が一層引き立っている。極めつけはその服装だ。
 白のワンピースが彼女のイメージに凄く似合っていて華やかで、それでいて可愛いらしい。一見少女のようだが肩から露出したその白い肌や、服を押し上げるそのふくよかな胸が大人の女性らしさを絶妙に演出していた。
 いつもの地味な見た目とのギャップからか、高野がとても魅力的な女の子に見えて、正直私は少しの間見惚れてしまっていた。
「う……うおおおおーっ!」
 工藤がここ最近では一番の雄叫びを上げた。もはや野獣といってもいい。
「うん、母親のひいき目を抜いても可愛いと思うわよ。美奈。」
「どう!? あたしのプロデュース力! 萌えると思わない!?」
 椎名が腕を胸の前で組み、うんうんと満足気に頷いている。
 昨日二人で学校が終わるや否やそそくさと帰ってしまったのはそういう事だったのかと今更ながらに納得する。
「あ……あの……。どうかな……?」
 高野が玄関から二、三歩前に進んできて私の顔を見た。白いヒールのついたサンダルが若干歩きに難いのか、ふらふらと足元が覚束無く、歩き難そうに見える。
 そんな事を考えていると椎名が私の方へと近づいてきて高野に見えないように私の脇腹を思い切りつねった。 
「あぐっ、うっ……!?」
「え?」
 高野が戸惑った声を上げた。ちらと椎名の方を見やると顎をくいっとやりながら口を動かしているのが見えた。どうやら褒めろと言いたいらしい。
「いや、その……凄く似合っていると……思うぞ」
「……っ!!?」
 高野はそんな私の言葉に真っ赤になって口を半開きにした状態であわあわしている。
「俺もすんげえかわいいと思うぜっ!」
「あ、ありがと……」
 そんな私達の間に入り込むように工藤が来てそんな直線的な賛辞を送っていた。本当にそんな台詞がよく言えるものだと私は素直に感心してしまった。
「ふう……」
 私は自然とため息が口をついて出た。先程から心臓がバクバクと早鐘を打ち続けている。
 しかし本当に今日は朝から刺激が強い。
 私はちらと椎名の方を再び見た。すると向こうもこっちを見ていたようで目が合った。彼女は一応曲がりなりにも高野を褒める言葉を送った私に納得したのか、うんうんと頷いてくれた。まあ及第点といった所だろう。
 そう思いつつ椎名も椎名。実は彼女もかなり刺激の強い格好で、まともに見る事が出来ないでいたのだった。
 彼女は別段気にした様子は無いようなのだが、駅で会った時私は今の高野の時と同じかそれ以上に衝撃を受けたのだ。 
 椎名の格好。
 ヒップラインがよく分かるデニム生地の短パンに、今日は胸の回りにヒラヒラのついた薄緑色のキャミソールを着ていた。
 そしてこの一ヶ月で少し伸びた髪をポニーテールにしており、白いうなじや、丈の短い服から覗くお腹回り、健康的な長い足が目に入り、この露出の多さは色々と目に毒なのだ。
 というか私なんかからすれば半分裸とすら思えてしまう。
「ふう……」
 私は今日のこれからの事を考え再び口をついてため息が漏れる。
 まともに勉強など出来るのだろうか。
 するつもりだが、もし勉強をしていてもこの邪念を振り払い続けて集中出来る自信など、今の私には皆無であった。
 私は若干緊張の面持ちであった。というのも勉強会の場所というのが私の予想の斜め上を行ったからだ。
「あらいらっしゃい! 皆よく来たわね! めぐみちゃん、また会えて嬉しいわ!」
 高野の家に着くと、母親らしき人が玄関口で出迎えてくれた。
 うろ覚えだが小学校三年生の時、高野とは同じクラスになった事があったのだ。その時の授業参観の時、恐らくこの人とは会っている。と言っても見た、と言った方が正しいか。正直よく覚えていない。
 勉強会の場所。
 私としては学校の図書室や近所の図書館辺りが妥当だろうと考えていただけに高野にこの提案を持ち掛けられた時は衝撃が走ったものだ。
 しかも工藤や私の部屋というのならまだ解る気がするが、女の子の部屋とは。正直同級生の親と会うという事は自分としてはかなりハードルが高く、当日まで、というか今この瞬間もかなり憂鬱であったが、高野がどうしてもと言うので了承したのだ。
 それに一度勉強会を了承した以上、今更断る訳にも行かない。そんな妙な責任感が頭を占めて結局覚悟を決めたのだった。
「美奈ママ! 私も会いたかったです!」
「私もよっ! めぐみちゃん!」
 そう言って二人は会うなりがっしりと抱き合った。第一印象で高野とは違い元気なお母さんだなと思う。この二人の方が親子という方がしっくりきてしまいそうな息の合いようだった。
 そう思いつつも最近の高野の様子を鑑みて彼女の本来の明るさや朗らかさのルーツはここにあるのかとも納得してしまう自分もいたが。
「美奈ママ! あと今日は手土産持ってきました!」
「あら、めぐみちゃんありがとう!そんなわざわざ気を遣ってくれなくてもいいのに」
「いえいえっ! 前回手ぶらで来ちゃったもんだから。そのリベンジです!」
 何と戦っているのか良く分からなかったが、椎名はそう言い高野のお母さんに紙袋を渡した。
「さてさて。では家の娘が選んだ男の子はどんな子たちなのかな?」
 不意に高野のお母さんが私達の方を向き、そう切り出してきた。
 それにいち早く反応したのは工藤だ。まるで待ってましたとばかり私の横を通り過ぎ前に出た。
「あのっ! 俺、工藤って言います! お母さまっ! この度はお日柄もよくっ!」
「ふふっ、工藤くんね? 思った通りの元気な子。私、そういう子好きよ?」
「あっ、ありがとうございます! うしっ!」
 にこやかに賛辞を述べられガッツポーズを決める工藤。相変わらず大袈裟な奴だ。まあそれでも好きな女の子の母親に気に入られてそうなる気持ちが全く分からない訳では無いが。
「それで? そっちの子は?」
 工藤を横目でちらりと見やる私に、高野の母親は視線を向けてきた。私はスッと腰を折って挨拶する。
「初めまして、君島と言います。高野美奈さんとは仲良くさせていただいております。今日はよろしくお願いします。」
 一応初めてではないのだが、お互い覚えていないだろうから、初めましてと挨拶した。
「君島……あら、あなたひょっとして君島隼人くん?」
 高野の母親は私の顔を見て暫し思案したように立ち止まり、そして私のフルネームを言い当てた。どうやら私の事を知っているようであった。
「ああ、実は小学生の時に美奈さんと同じクラスだった事がありました。初めてでは無かったのですが、もう覚えていらっしゃらないかと思いまして。失礼しました。」
「え、そうなの? ふーん、私はてっきり……。まあ細かいことはいいわ。隼人くんも今日は楽しんでいってね!」
 高野の母親はしっくりと来ない反応を見せた。だが然程追求する事でも無い。別段気にはならなかったが、それよりも本日ここに私達を呼んだ張本人、高野がまだ姿を見せていない。一体どうしたというのだろう。
「なんだかあの子、ちょっといつもと雰囲気違うから、恥ずかしがってるみたいなのよ」
 にっこりと言う高野の母親。まるで私は心を読まれた心持ちがして少々落ち着かない気分になった。
「お母さん! 私が連れてきます!」
 母親の言葉に椎名は得心がいったのか、そそくさと家に上がり込んで階段を上がっていく音がドタバタとする。高野の部屋は二階にあるのだろう。
 そして扉が開閉する音が慌ただしく聞こえて程無くして二つの足音が下りてきた。玄関の扉が開かれ椎名が顔を覗かせる。
「おまたせー! フッフッフッ。男どもっ、驚かないでね! 美奈、ほらっ、出てきなさいよっ! とっても可愛いわよ!」
「うう……そんなこと言わないでよ……恥ずかしい」
 椎名に言われて玄関からすごすごと出て来た人物。
 最初それが高野だと分かるまでに数秒の時間を要した。
「あ……あ……」
 工藤が声も出せずぷるぷると立ち竦んでいる。その気持ちも何となく分からないでも無い。
 一言で言うと高野がすごく女の子らしい格好で立っていたのだ。
 いつもしている眼鏡を外し、おそらくコンタクトにしたのだろう。
 眼鏡で隠れて分からなかった長い睫毛やぱっちりした目が露になった。
 その長い髪は頭の上でお団子にしており小顔が一層引き立っている。極めつけはその服装だ。
 白のワンピースが彼女のイメージに凄く似合っていて華やかで、それでいて可愛いらしい。一見少女のようだが肩から露出したその白い肌や、服を押し上げるそのふくよかな胸が大人の女性らしさを絶妙に演出していた。
 いつもの地味な見た目とのギャップからか、高野がとても魅力的な女の子に見えて、正直私は少しの間見惚れてしまっていた。
「う……うおおおおーっ!」
 工藤がここ最近では一番の雄叫びを上げた。もはや野獣といってもいい。
「うん、母親のひいき目を抜いても可愛いと思うわよ。美奈。」
「どう!? あたしのプロデュース力! 萌えると思わない!?」
 椎名が腕を胸の前で組み、うんうんと満足気に頷いている。
 昨日二人で学校が終わるや否やそそくさと帰ってしまったのはそういう事だったのかと今更ながらに納得する。
「あ……あの……。どうかな……?」
 高野が玄関から二、三歩前に進んできて私の顔を見た。白いヒールのついたサンダルが若干歩きに難いのか、ふらふらと足元が覚束無く、歩き難そうに見える。
 そんな事を考えていると椎名が私の方へと近づいてきて高野に見えないように私の脇腹を思い切りつねった。 
「あぐっ、うっ……!?」
「え?」
 高野が戸惑った声を上げた。ちらと椎名の方を見やると顎をくいっとやりながら口を動かしているのが見えた。どうやら褒めろと言いたいらしい。
「いや、その……凄く似合っていると……思うぞ」
「……っ!!?」
 高野はそんな私の言葉に真っ赤になって口を半開きにした状態であわあわしている。
「俺もすんげえかわいいと思うぜっ!」
「あ、ありがと……」
 そんな私達の間に入り込むように工藤が来てそんな直線的な賛辞を送っていた。本当にそんな台詞がよく言えるものだと私は素直に感心してしまった。
「ふう……」
 私は自然とため息が口をついて出た。先程から心臓がバクバクと早鐘を打ち続けている。
 しかし本当に今日は朝から刺激が強い。
 私はちらと椎名の方を再び見た。すると向こうもこっちを見ていたようで目が合った。彼女は一応曲がりなりにも高野を褒める言葉を送った私に納得したのか、うんうんと頷いてくれた。まあ及第点といった所だろう。
 そう思いつつ椎名も椎名。実は彼女もかなり刺激の強い格好で、まともに見る事が出来ないでいたのだった。
 彼女は別段気にした様子は無いようなのだが、駅で会った時私は今の高野の時と同じかそれ以上に衝撃を受けたのだ。 
 椎名の格好。
 ヒップラインがよく分かるデニム生地の短パンに、今日は胸の回りにヒラヒラのついた薄緑色のキャミソールを着ていた。
 そしてこの一ヶ月で少し伸びた髪をポニーテールにしており、白いうなじや、丈の短い服から覗くお腹回り、健康的な長い足が目に入り、この露出の多さは色々と目に毒なのだ。
 というか私なんかからすれば半分裸とすら思えてしまう。
「ふう……」
 私は今日のこれからの事を考え再び口をついてため息が漏れる。
 まともに勉強など出来るのだろうか。
 するつもりだが、もし勉強をしていてもこの邪念を振り払い続けて集中出来る自信など、今の私には皆無であった。
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