私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 試合開始の笛がなり、私のクラスのバレーボールの試合が始まった。
 試合は当たり障り無く進行していく。
 というのも私の学校にはそもそもバレーボール部というものが女子以外存在していない。中学生からの経験者でもいない限り実力は似たり寄ったり。必然的に身体能力、運動神経の良い者がいるチーム程勝ち易い。
 だが勿論そんな者は他の競技であるバスケットボールや野球の方に取られてしまうので、結果男子バレーボールはかなりレベルの低い泥試合となるのだ。
 そういう条件下での余り者の寄せ集めと考えればラリーになっているだけでもお互いに健闘していると言えるのではないだろうか。
 私自身もスポーツは苦手という訳では無い。
 元々学業の方を優先しているのでクラブ活動というものに入る意思が無かっただけだ。
 体育の成績も平均的な部類に入っているし、球技もその全てが未経験だという事を考えればどれもこれもそれなりにこなしていると見ていいのではないだろうか。
 そんな自画自賛をして何になると言えばそこまでだが、実際私はこの試合それなりに勝敗に貢献していると言える筈だ。
 スパイクにより最早自身五得点は上げているし、何度か良い所でボールを繋いで実際試合は三点差で勝っている。
 このまま行けば二回戦進出は何とかなりそうな流れであった。
 突然向こうのコートで軽いどよめきが起こった。
 そちらを見やると少し人だかりが出来ている。向こう側は女子のコート。この感じだと恐らく誰かが怪我をしたとか倒れたとか、そんな所だろう。
 何となく私は嫌な予感がして試合中にも関わらずそちらに気を取られていた。
 先生が輪の中に入っていく。暫く見ているとやはりその予感は的中、体育教師が肩を貸しながら連れられていく椎名の姿。
 足を引きずるように歩いているのを見ると少し挫いてしまったようである。その表情は苦悶に歪んでおり、かなり痛そうだ。どういう状況だったかは見ていないので分からないが、捻挫くらいはしていそうだ。
 病み上がりであるのに急に運動をしたものだから調子が上がらなかったのだろう。そのまま彼女は保健室へと連れられていく。
 私は完全に気を取られ、姿が見えなくなった後も彼女が去った方を暫く眺めていた。
 先程の試合前の椎名の顔が思い出される。
 別段無理をしているようには見えなかった。まだ風邪が治りきっていないという事は無いだろうが、熱が下がれば今度は怪我とは本当に近頃災難続きだ。まあそれでもこういった事は災難というよりは本人の普段からの生活態度というか、健康管理というか、そういった事がものを言う。
 風邪を引くにしても、普段から手洗いうがいの習慣や規則的な生活、健康的な食事を心掛けていればその殆どは防げるものだ。
 あの日見舞いに行った際彼女は家に一人きりだった。
 普段からそういった状況が多いなら椎名はいつも家で一人の時間が多いという事になる。そんな中で規則的な生活はまだしも健康的な食事が取れているだろうか。
 また病み上がりで授業を受けるなら良かったが生憎今日は球技大会である。いつもより体を動かすタイミングが多い状況だ。そんな日に復帰とはこれまたどうかと思ってしまうのだ。何なら大事を取ってもう一日休んでも良かったのではないか。
 などと彼女の一連のここまでの流れから、そんな事を頭の中で一人もやもやと考えてしまうのだ。


「おいっ! 君島! 行ったぞっ!!」


 突然名前を呼ばれ私は声の方を振り返ろうとした。その瞬間目の前に何かが顔面を直撃。その衝撃に私は頭の中が真っ白になってしまう。
 私は一体それが何だったのか考える間も無く、意識は綺麗に刈り取られ、そのまま眠るように横たわったのだった。
 思いの外頬に当たる地面の感触は温かく心地好かった。

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