私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 照りつける太陽は初夏にもかかわらず、肌にヒリつくような日差しを称えている。
 六月の方が真夏日に比べて紫外線も強く、日焼けや肌荒れをしやすいと何かの番組で見た記憶がある。
 こんな日に球技大会とは勘弁してほしいものだ。
 私は体操着に着替えてバレーボールを実施する運動場へと足を踏み入れていた。本来バレーボールなら体育館だろうと言いたいが、こちらはバスケットボールと卓球をする会場となっているので仕方無い。
 まあ体育館は体育館で風通しも悪く、エアコンなども全く設備が無い。中は真夏程では無いにしろ、それなりの熱気でむんむんとしていて息苦しい筈だ。ならばある程度心地好い風が吹く外にいる方が幾らかマシだろうとそんな理由を脳内完結させて私はクラスメートの同じチームの輪の中に入っていった。 
 結局椎名は今日になってようやく登校してきた。とは言ってもまだ姿を見てはいない。
 今日は球技大会という事で勝手がいつもとは違うのだ。朝から男女別れて二クラス合同で着替えを行い、それぞれの球技の場所へ各自集合となっていた。
 そんなだから当然異性との接触の回数は大幅に減る。
 なので未だに椎名の姿は見ていないという訳だ。私が何故今日椎名が登校して来たと述べたのかというと、昨日高野が明日登校して来ると教えてくれたからだ。
 高野とはあの日以来かなり仲良くなったように思う。
 教室の中では普段通りだが、放課後お互い示し合わせた訳でも無いのに一緒に帰るような間柄になった。
 また夜気軽にメールが来たりもした。
 いざ打ち解けてしまえば高野は始めの頃の引っ込み思案な印象とは大きく異なり、良く喋るし話し掛けもする方なのではないかと思えた。その辺りは意外だったがそれでも居心地が悪いかと言われれぱ不思議とそういう訳でも無かったのだ。
 しかし実際こういう関係性になったのもここ数日の話なのだ。いつまた以前と同じような状況に戻るとも言えないが、もし今日明日そうなってしまったとしたら、私は一体どう感じるのだろうか。


「君島くん!」


 突然肩を叩かれ、その声に肩が大袈裟に跳ねる。考え事をしていたから、余計に不意打ちのように心は急速にざわめいた。


「お、おはよう」


「あら、珍しい。君島くんがちゃんと挨拶してくれた」


 椎名はいつもと変わらない明るさで私に話し掛けてくる。私は心臓がバクバクいって気が気じゃ無いというのに。


「君島くんもバレーボールだったんだね? 上手いの?」


「いや……ただの人数合わせみたいなものだ」


「ふーん……そうなんだ」


「……」


 そこまで話してその後二人の間に沈黙が流れる。私にとっては永遠とも思える、だが時間にするとほんの数秒の時間。その間バクバクと心臓が更に加速していき、このまま倒れてしまうのではないかとすら思ってしまう。
 椎名の肩まで伸びた髪が風に揺れて、陽の光にキラキラと煌めいて。鼻腔をシャンプーの匂いだろうか。甘い香りがくすぐってくる。そして落ち着き無く視線をさ迷わせる私は、その拍子に体操着越しの彼女の胸の膨らみが視界に入ってしまった。その途端にこの前の出来事が思い出されて。私はそれを払拭するように顔を上げた。そこで今度は私の方を見ている椎名と目が合ってしまう。それだけの事でまた酷く動揺して、瞳孔は見開かれて、それでも彼女の瞳から何故か目が離せないでいたのだから。私は酷く困惑した。正直どうしていいか分からない。こんな挙動の私を見て椎名はどう思うのだろうか。
 だがそんな私の胸の内とは裏腹に、彼女はクスッと微笑んだ。
 その表情を見ただけで私は心臓を鷲掴みにされて胸の中をぐちゃぐちゃに掻き回されて、身体中を稲妻が駆け巡ったような心持ちになってしまうのだ。


「じゃあ君島くんも頑張ってね!」


 それだけ告げると踵を返してとことこと小さな歩幅で女子達の群れへと歩いて行ってしまう。と思いきや、すぐにピタリと足を止め、再びこちらに戻ってきた。
 私は彼女の行動に目を奪われてその場に立ち尽くしてしまう。やがて二人の距離が数十センチにまで近づき彼女は呟くように私に言った。


「お見舞い来てくれて……ありがとねっ」


 それだけ告げて彼女は走り去った。
 その後はいつもと変わらない笑顔でクラスメートと話し込んでいる。まるで何事も無かったかのように。今しがたの邂逅が嘘だったかのように。
 暫く私は彼女から目が離せないでいた。間もなく教師の集合の合図があった。ようやくそこで私は現実に引き戻されたように動いた。そして程無くして試合が始まっていく。
 私は試合が進んでいく間中、ずっと先程の事で頭が一杯になった。
 私は彼女の初めて見せた表情に釘付けになっていたのだ。頬を朱に染めて恥ずかしそうにする彼女の表情に。

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