私のわがままな自己主張 (改訂版)
 次の日も椎名は学校を休んだ。
 ほっとしているというのが正直な感想だ。
 あの様子だと昨日の今日で良くなるのは無理があるだろうから当然といえば当然だが、それでも今日もし椎名が学校に来たらと思うと、朝方まで全く眠れなかったのである。
 我ながら情けないとは思うが、そんな簡単に自分の感情や想いを律する事が出来るのならば初めから苦労はしない。
 そしてもう一つの問題。
 高野の事だ。
 彼女とは昨日あれから顔を合わせる事無く家に帰った。
 家に着く頃に携帯を確認すると案の定着信とメールが来ていたが、その時はそれに対応する余裕も無く、結果夜遅くに『急用が出来たので帰った。済まない』とだけメールを送った。
 その後直ぐに『良かったです。おやすみなさい、また明日』とだけ返事があり、私は床についた。
 今日学校に来てから今まで、高野とはまだ一度も会話をしていない。
 というかそもそも挨拶すら交わしていない。
 それもその筈だ。
 元々教室では椎名が朝絡んでくるついでに挨拶を交わす程度の接点だった。となれば今の状態は当然と言えば当然である。
 ただ強いて言うならば、昨日の事があるだけに話す切っ掛けのようなものはしっかりとある。話したければ自然に会話をする動機だけは充分と言えよう。
 たがしかし、それにはかなりの勇気を要する。そもそも今でも後ろめたい気持ちがずっと消えずに、胸にしこりのように住み着いたままだ。
 とてもでは無いがまともに会話が出来る気がしない。
 結局の所、至って自然に、などとという事が私に可能な訳が無いと思い止まらせるのだ。
 そして遂には何故高野に誤解を解くような行動を自分からしなければならないのかなどと言い訳のような、逆ギレのような、とにかく決して前向きでは無い理由から、私は全ての事から目を背けながら今日という時間を過ごしていた。 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 昼休み。
 昼食を食べ終えた所で工藤が私の席に来て話し掛けてきた。
「おい、君島」
「どうしたのだ? 宿題なら見せてやらんぞ」
「ちっ、ちげーよ! それは他のヤツに見せてもらったっつーの!」
 その返答もどうなのかと思いつつ、いつもと違い若干神妙な面持ちのように見える工藤。私は黙って彼の次の言葉を待った。
「……つーかさ。高野、今日何か元気無くね?」
 すると突然工藤の口から高野の名前が出て来る。それに私は内心ドキリとしてしまう。
 しかし工藤が私の所にわざわざ来て何か話す場合は勉強の事か高野の事くらいのものだ。
 初めに勉強の可能性は潰れているので大体予想は出来ていたが、いざその話を持ち掛けられるとやはり心持ちは落ち着かなくなる。
「そうだろうか。いつもと同じに見えるが」
 私は至って平然と答える。内心は何故か鼓動が早く脈打っているのだが。
「はあ? お前何見てんだよっ。今日は高野、一日ずっとしゃべってねーじゃねーか」
 高野が好きと豪語する工藤と同じように見ている訳も無いのだが、確かに今日の彼女が何か言葉を発している場面は全く見掛けていない。とはいえそれも説明はついてしまうのだが。
「それは椎名が休みだからであろう。高野は椎名と仲が良いからな」
 と弁明するが工藤は私の言葉に尚も食い下がってくる。しかも食い気味に言葉を返してくる。
「バカッ、そういうんじゃねーんだよ! お前はそれでも俺と高野とのパイプ役かっ」
 その言い方に若干カチンときつつ、私は工藤の言う意味合いを量りかねていた。高野が元気が無い。もしそれが本当なのだとしたら、それは一体どういう事だろうか。
「……とにかくいちいち私を当てにするのは止めてくれ。気になるのであればそろそろ自分でどうにかしたらどうなのだ。私はもう充分に役目を果たしたと思うのだが?」
 私は敢えて挑発的な言葉を選び工藤にぶつける。多少不機嫌になったとしてもこれ以上いいように使われるのは御免だ。ここらで私自身少しずつ関わりを絶つようにしなければ。ただでさえややこしい自体だというのに。
 
「ちっ、わかったよ。ちょっと話してくるわ」
 すると工藤は思いの外あっさりと私の元から離れていった。
 私は拍子抜けして工藤の姿をそのまま目で追ってしまう。こちらから追い払うような事を言っておいていざそうなれば後ろ髪引かれるとは何とも自分勝手な思考だ。私は自己嫌悪の念に囚われた。
 そのまま高野の元へと歩いていく工藤。やがて声を掛けられた高野はびっくりしたように工藤を見て、それでも至って普通に何やら話し込み始めた。高野も工藤とは面識が無い訳では無い。当たり前と言えば当たり前なのだが。ほんの少し胸にしこりのようなものを感じてしまう。
 ここからでは当然何を話しているかまでは聞き取れない。
 不意に高野がちらと一瞬だけこちらを見たような気がした。私は慌てて視線を前に戻す。
 私は何も気にしない振りをして机に突っ伏し寝た振りをする。
 何だこれは。何なのだ一体この胸のもやもやは。
 視覚を自ら遮断してしまうと不思議なもので周りの音がやけに鮮明に耳に入ってくる。特に聞こえてくるのは離れているにも関わらず馬鹿でかい工藤の声だ。高野の声はというと小さくて何も聞き取れない。だが二人が何かしら話し込んでいるらしい事だけは分かった。
 やがて聞こえる工藤の笑い声。それを聞いてほんの少しだけ胸の奥がざわつく。
 そんな自分が嫌で、湧いてきた嫌悪感を削除していくように私は机に突っ伏したまま大きなため息をついた。まるで鼾でも掻くように。
「……」
 やれやれ、本当に私は一体どうしてしまったというのだ。
 私は何かの振りばかりしている。まるで道化だ。
 ほっとしているというのが正直な感想だ。
 あの様子だと昨日の今日で良くなるのは無理があるだろうから当然といえば当然だが、それでも今日もし椎名が学校に来たらと思うと、朝方まで全く眠れなかったのである。
 我ながら情けないとは思うが、そんな簡単に自分の感情や想いを律する事が出来るのならば初めから苦労はしない。
 そしてもう一つの問題。
 高野の事だ。
 彼女とは昨日あれから顔を合わせる事無く家に帰った。
 家に着く頃に携帯を確認すると案の定着信とメールが来ていたが、その時はそれに対応する余裕も無く、結果夜遅くに『急用が出来たので帰った。済まない』とだけメールを送った。
 その後直ぐに『良かったです。おやすみなさい、また明日』とだけ返事があり、私は床についた。
 今日学校に来てから今まで、高野とはまだ一度も会話をしていない。
 というかそもそも挨拶すら交わしていない。
 それもその筈だ。
 元々教室では椎名が朝絡んでくるついでに挨拶を交わす程度の接点だった。となれば今の状態は当然と言えば当然である。
 ただ強いて言うならば、昨日の事があるだけに話す切っ掛けのようなものはしっかりとある。話したければ自然に会話をする動機だけは充分と言えよう。
 たがしかし、それにはかなりの勇気を要する。そもそも今でも後ろめたい気持ちがずっと消えずに、胸にしこりのように住み着いたままだ。
 とてもでは無いがまともに会話が出来る気がしない。
 結局の所、至って自然に、などとという事が私に可能な訳が無いと思い止まらせるのだ。
 そして遂には何故高野に誤解を解くような行動を自分からしなければならないのかなどと言い訳のような、逆ギレのような、とにかく決して前向きでは無い理由から、私は全ての事から目を背けながら今日という時間を過ごしていた。 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 昼休み。
 昼食を食べ終えた所で工藤が私の席に来て話し掛けてきた。
「おい、君島」
「どうしたのだ? 宿題なら見せてやらんぞ」
「ちっ、ちげーよ! それは他のヤツに見せてもらったっつーの!」
 その返答もどうなのかと思いつつ、いつもと違い若干神妙な面持ちのように見える工藤。私は黙って彼の次の言葉を待った。
「……つーかさ。高野、今日何か元気無くね?」
 すると突然工藤の口から高野の名前が出て来る。それに私は内心ドキリとしてしまう。
 しかし工藤が私の所にわざわざ来て何か話す場合は勉強の事か高野の事くらいのものだ。
 初めに勉強の可能性は潰れているので大体予想は出来ていたが、いざその話を持ち掛けられるとやはり心持ちは落ち着かなくなる。
「そうだろうか。いつもと同じに見えるが」
 私は至って平然と答える。内心は何故か鼓動が早く脈打っているのだが。
「はあ? お前何見てんだよっ。今日は高野、一日ずっとしゃべってねーじゃねーか」
 高野が好きと豪語する工藤と同じように見ている訳も無いのだが、確かに今日の彼女が何か言葉を発している場面は全く見掛けていない。とはいえそれも説明はついてしまうのだが。
「それは椎名が休みだからであろう。高野は椎名と仲が良いからな」
 と弁明するが工藤は私の言葉に尚も食い下がってくる。しかも食い気味に言葉を返してくる。
「バカッ、そういうんじゃねーんだよ! お前はそれでも俺と高野とのパイプ役かっ」
 その言い方に若干カチンときつつ、私は工藤の言う意味合いを量りかねていた。高野が元気が無い。もしそれが本当なのだとしたら、それは一体どういう事だろうか。
「……とにかくいちいち私を当てにするのは止めてくれ。気になるのであればそろそろ自分でどうにかしたらどうなのだ。私はもう充分に役目を果たしたと思うのだが?」
 私は敢えて挑発的な言葉を選び工藤にぶつける。多少不機嫌になったとしてもこれ以上いいように使われるのは御免だ。ここらで私自身少しずつ関わりを絶つようにしなければ。ただでさえややこしい自体だというのに。
 
「ちっ、わかったよ。ちょっと話してくるわ」
 すると工藤は思いの外あっさりと私の元から離れていった。
 私は拍子抜けして工藤の姿をそのまま目で追ってしまう。こちらから追い払うような事を言っておいていざそうなれば後ろ髪引かれるとは何とも自分勝手な思考だ。私は自己嫌悪の念に囚われた。
 そのまま高野の元へと歩いていく工藤。やがて声を掛けられた高野はびっくりしたように工藤を見て、それでも至って普通に何やら話し込み始めた。高野も工藤とは面識が無い訳では無い。当たり前と言えば当たり前なのだが。ほんの少し胸にしこりのようなものを感じてしまう。
 ここからでは当然何を話しているかまでは聞き取れない。
 不意に高野がちらと一瞬だけこちらを見たような気がした。私は慌てて視線を前に戻す。
 私は何も気にしない振りをして机に突っ伏し寝た振りをする。
 何だこれは。何なのだ一体この胸のもやもやは。
 視覚を自ら遮断してしまうと不思議なもので周りの音がやけに鮮明に耳に入ってくる。特に聞こえてくるのは離れているにも関わらず馬鹿でかい工藤の声だ。高野の声はというと小さくて何も聞き取れない。だが二人が何かしら話し込んでいるらしい事だけは分かった。
 やがて聞こえる工藤の笑い声。それを聞いてほんの少しだけ胸の奥がざわつく。
 そんな自分が嫌で、湧いてきた嫌悪感を削除していくように私は机に突っ伏したまま大きなため息をついた。まるで鼾でも掻くように。
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