私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 六月初週。週明けの月曜日。六月になったとはいえまだまだ朝夜は肌寒く、時折雨が降ったりはするが、まだ梅雨入りという訳では無いらしい。
 そんな中今週はいよいよ木曜日と金曜日に球技大会が行われる。
 私はスポーツを普段余りやる事が無い。別段運動が苦手という訳では無いのだが、運動部に所属する面々に比べればどうしても見劣りする事は目に見えている。
 なので私にとっては体育祭の次くらいに厄介な行事である。
 出来る事なら見学でもしていたいが、学校の行事となれば真面目に取り組むしか無いと思うのであった。
 そんな少しだけ憂鬱な一週間の幕開けは、一風変わった事が起こった。


「椎名……は休みか」


 珍しい事に椎名が学校を休んでいたのだ。実はあの映画を見に行った日。帰り際夕立ちのような雨が降ったのだ。そんな中家が近いからと椎名は傘も差さずに自転車で帰ったのだった。それが原因かもしれない。
 朝の挨拶が無かった事により彼女が教室にいない事を直ぐに気づけてしまう。
 何というか、変な習慣をつけられたせいで少し意識してしまっている自分が嫌だった。
 そうは言っても普段からクラスメイトとも積極的に会話をしない私にも、朝から挨拶を交わすような相手が出来たのかと思うとむず痒いというか、不思議な気持ちになった。


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 放課後、図書室でカウンター業務をしている時の事であった。
 一緒に業務をこなす相手はいつも通り高野である。
 少し前までは多少なりとも緊張していた気がするが、気がつけば二人とも普通に接するようになったように思う。少なくとも高野が私に話す際、良く目が合うようになったのは事実だ。
 そこまで考えて、それは私の方も同じ事が言えるなと思った。
 私自身も人と会話する際、相手の目をじっくり見て話すという事は基本的にしない。
 だから高野だけが私の目を見て話すようになった所で目を見て会話するという事は実現し得ない事なのである。
 そういった事からも、私も高野に対してある一定以上の気兼ね無さを備えたと言えるのであろう。
 私が他人に、それも同い年の女子に対してそんな状態になる日が来るなど夢にも思わなかった。果たしてそれは良い事なのだろうか。
 そうは考えつつも、私自身、そこまで嫌な気持ちがある訳では無かった。
 同い年の異性の知人。それくらいの相手がいても別に構わないのではないか。そんな事を彼女を隣にしながら取り留めもなく思った。


「君島くん」


 不意に高野が私の名前を呼んだ。一人思案に耽っていた私は思わずぎょっとして目を見開いてしまう。


「ど、どうしたのだ?」


 別に隣にいるのだから話し掛けられる事ぐらいは普通。それは分かっている筈なのだが、高野の事を考えていただけに変に構えた反応を見せてしまった。
 流石にこの反応は申し訳無かったか。
 高野の事だから今みたいな反応をしてしまうとショックを受けかねない。少なくとも私なら多少は構えてしまうだろう。少し反省しつつも私は高野の次の言葉を待ちながら考える。
 ここは冷静に、至って普通に会話に興じる事にしよう。
 何を言われても取り敢えず余り否定的な返しはしないでおこうと密かに心に決める。
 そしてそんな私の心の内を全く知りもしない、知る筈も無い。高野の口から次の言葉が告げられた。


「あの、よかったらめぐみちゃんのお見舞いに一緒に行ってくれないかな?」


「ああ、そんな事か! 別に構わないぞ!」


「……ホント!?」


「……は?」


 私は至って普通に、と頭の中で唱えていた事が災いして即答で了承してしまう。
 言葉を言い終えてから否定に思い至るまで三秒程。その頃には安堵と嬉しさの入り交じる高野の顔が目の前にあって、そこから断りを入れるなどとてもでは無いがそんな気概、私には備わっている筈も無かったのだ。

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