私のわがままな自己主張 (改訂版)
 大久保駅は南口と北口がある。北口が学校がある方面だ。更に言うと比較的周りが住宅街となっている地域である。
 この駅の南口が私達が今いる辺り。ビルが4棟程連なったビブレというショッピングモール。私たちはまずそこのフードコートで軽く食事をする事になった。
 こういう時フードコートという場所は本当に利便性に優れている。
 何か食べたいものがあっても四人意見を合わせる必要は無い。
 お互いが気を使い合って誰かがそこまで食べたくもないものの店を決める、というような事が無いのだから。
 工藤は真っ先に定食のお店に行き、椎名と高野も連れ添って何処かへ行ってしまった。
 土曜日という事もあって席は混んでいる。特にこういった場所では家族連れが多い。昼飯時で賑わうこの場所は多くの人でごった返していた。
 こうなってしまうと必然的に私が四人席に腰を下ろし、席取りの役目を担う事になった。特に腹が減っているという訳でも無いので仕方無しと思い、誰かが戻ってくるのを待つ事にした。
 そう思った矢先、高野がすぐに戻ってきた。
 私の向かいの席にちょこんと腰を下ろす。
「……? 高野、買いにいかないのか?」
 不思議に思って訊ねてみると高野は少しもじもじした様子だ。心無しか頬も赤いように見える。
「あの……めぐみちゃんが私が買っとくから先に戻ってていいって言ってくれて」
「ああ……」
 なるほど。椎名が買い出し。荷物番が高野という訳か。それで得心がいった。
「そうなのか。じゃあ私も買いに行ってきてもいいだろうか?」
「あっ……」
 
 私が立ち上がり買いにいこうとすると高野は何か言いたげに顔を上げて、しかし直ぐに俯いて黙りこんだ。何かあるのだろうか。
 暫くそのまま行かないでいると一度ちらと視線をこちらへ巡らせた後口を開いた。
「めぐみちゃんがハンバーガーセットなら君島くんの分も買っていくって言ってたよ?」
「ん? ……ああ、そういう事か」
「うん……」
 それで全ての事に得心がいった。
 要するに高野は荷物番兼私の分まで昼飯を買っておいてくれるという事を報告するために戻ってきたという事だ。
「じゃあお言葉に甘えるとするか」
 特にこれが食べたいという強い意思があった訳でも無い。そうい事であればそのまま好意を受け取る事にしようではないか。
「うん。じゃあめぐみちゃんにLINEしておくね」
 そう言って高野はスマホを取り出して画面をちょこちょこと操作していた。程無くして打ち終わったのだろう。スマホを鞄にしまい短いため息を一つ。そのタイミングで高野の目がこちらに向いてばっちりと目が合ってしまう。
 私達は一秒程目を合わせたままどちらからともなく逸らしては、周りに目を向けていた。
 少しだけ手持ち無沙汰で道行く人々を観察するように眺めている。普段こんな時にこんな場所に訪れる事自体無い私にとってはとても新鮮な気持ちだった。
「あ……」
「ん?」
 高野が上げた声に思わず反応してしまう。別に聞こえない振りをしても大丈夫なくらいの、喧騒の中に消え入りそうなくらいの弱々しい呟き。
 私自身もそれに咄嗟に反応を示してしまったので高野の視線のその先を見やる。するとそこには転んで泣いている小さな女の子がいた。
「好きなのか?」
「えっ!?」
 私の呟きに弾かれたようにこちらを見る高野。
「いや……子供。見ていただろう?」
 暫くこちらを見て固まっている高野にそう付け加える。すると再びそのままの姿勢で止まったまま、暫く何かを考えているような顔をして、やがて「ああ」と小さく呟いた。高野は少し時間を掛けてようやく私の言葉を理解してくれたらしい。まあ私も言葉足らずだったのでそこは仕方無しな部分もあるのであるが。
「まあ、嫌いじゃないけど。その、何か似てるなって思って」
 それは恐らく子供の時の自分に重ね合わせた言葉であろう事は予想出来た。
 確かに高野の子供の頃を想像すると、いつも転んで泣いている姿が容易に想像出来てしまった。私は何だかそれが可笑しくて吹き出しそうな気持ちを我慢する羽目になった。
「え? ……君島くん、どうかした?」
 不思議そうに私を見ている高野。こんな事、断じて話す事は出来ない。たが、高野の前で笑う事も正直憚られる。
 結果私は咳き込む振りをして後ろを向いてゴホンッと二回程声を出した。その拍子に再び冷静な表情を作る。
「何でも無い。ただちょっと咳が出そうで苦しかっただけだ」
「え? 大丈夫? 風邪なの?」
 普通に心配そうに私を見ている高野。そんな彼女に若干申し訳無い気持ちがこみ上げてくる。
「あれ? お前ら買いにいかねーの?」
 そうこうしているうちに工藤が戻ってきた。お盆の上には唐揚げ定食らしきものが乗っている。
「あ、いや。椎名がまとめて買ってきてくれるみたいなのでな」
「え!? そうなの!? いや、言ってくれよ!」
「いや、お前がさっさと一人買いに行ってしまうからだろう」
 言った所でどうなるものでも無い気はするが、上手くすれば高野の前にいるのは自分だったかもしれないとでも思ったのだろうか。こんなもの、完全に偶然の産物でしか無いというのに。
「んー、まあいーや。とりあえず腹減ったから先に食うぜっ!」
 工藤は特に深く考えるでもなく、目の前の唐揚げ定食に手をつけ始めた。
「お待たせっ! やっぱり混んでんねー」
 丁度その時お盆に大量のポテトとハンバーガーを乗せた椎名も帰って来た。椎名は手際良くそれぞれのセットを取り分けていく。私と高野はハンバーガーのセット。椎名はダブルチーズバーガーのセットにテリヤキバーガーもついている。
「椎名は……」
「ん?」
 二個も食べるのかと言い掛けて既の所で言葉を呑み込む。流石に女の子にそういう質問は不味いだろう。
「椎名ってけっこう食うんだな」
 と思っていたら隣りで唐揚げにガッツいていた工藤が真っ先にそう告げた。私はかなり内心ヒヤリとしてしまったのだが、思いの外椎名は平気そうであった。
「うん。私も朝から部活でお腹ペコペコだもん。これくらい普通よ」
 
 ケロリと答える椎名を見て私はそういうものなのかと思い直す。その時謀らずも高野と目が合った。彼女のその様子だと、高野も私と同じ事を考えていたような気がした。彼女は一度こくりと頷いた。
 その時ふと私はある事に思い至る。
「そうだ、椎名。お金を払っていなかったな」
 そう言いつつ財布を出す私に、しかし椎名の返答は思っていたものとは違う反応であった。
「ん? あー、君島くん大丈夫よ? 美菜からもうもらってるから」
「え?」
 そう言われ高野を見ると若干顔が赤い。
「あの……勉強のお礼だよ?」
 照れ臭いのか顔を赤くしたまま俯いてしまう高野。私としては悪いとも思ったが、今の高野に断りを入れる方がもっと悪い気がして私はその申し出を素直に受ける事にした。
「そうか……では、有り難く頂戴する」
「うん……」
「しっかしいつの間に高野とそんな約束してたんだ?」
 工藤が訝しげな目で私の方を見てくる。工藤としては抜け駆けをされた気分で面白くは無いのだろう。
「ああ、昨日たまたまそういう話になってな。急遽決まったのだ」
「私がわがまま言ってお願いしちゃったから……」
「……ふーん」
 当たり障り無く答えたつもりが高野がフォローするようにそんな事を言ったものだから工藤は更に不機嫌な様子だ。予期していなかった訳では無いが、少々困ったな。
「まあいーじゃない! そのお陰で私たちも今度君島くんに勉強教えてもらえるんだからさ!」
 
 椎名が見かねたのかそうフォローしてくれる。先程流れでそうなったとはいえ勉強を教える事を受けておいて良かったと今さらになって思う。
 流石に工藤もその点は悪い気はしていないようで、それ以降はその事について触れては来なかった。
 この駅の南口が私達が今いる辺り。ビルが4棟程連なったビブレというショッピングモール。私たちはまずそこのフードコートで軽く食事をする事になった。
 こういう時フードコートという場所は本当に利便性に優れている。
 何か食べたいものがあっても四人意見を合わせる必要は無い。
 お互いが気を使い合って誰かがそこまで食べたくもないものの店を決める、というような事が無いのだから。
 工藤は真っ先に定食のお店に行き、椎名と高野も連れ添って何処かへ行ってしまった。
 土曜日という事もあって席は混んでいる。特にこういった場所では家族連れが多い。昼飯時で賑わうこの場所は多くの人でごった返していた。
 こうなってしまうと必然的に私が四人席に腰を下ろし、席取りの役目を担う事になった。特に腹が減っているという訳でも無いので仕方無しと思い、誰かが戻ってくるのを待つ事にした。
 そう思った矢先、高野がすぐに戻ってきた。
 私の向かいの席にちょこんと腰を下ろす。
「……? 高野、買いにいかないのか?」
 不思議に思って訊ねてみると高野は少しもじもじした様子だ。心無しか頬も赤いように見える。
「あの……めぐみちゃんが私が買っとくから先に戻ってていいって言ってくれて」
「ああ……」
 なるほど。椎名が買い出し。荷物番が高野という訳か。それで得心がいった。
「そうなのか。じゃあ私も買いに行ってきてもいいだろうか?」
「あっ……」
 
 私が立ち上がり買いにいこうとすると高野は何か言いたげに顔を上げて、しかし直ぐに俯いて黙りこんだ。何かあるのだろうか。
 暫くそのまま行かないでいると一度ちらと視線をこちらへ巡らせた後口を開いた。
「めぐみちゃんがハンバーガーセットなら君島くんの分も買っていくって言ってたよ?」
「ん? ……ああ、そういう事か」
「うん……」
 それで全ての事に得心がいった。
 要するに高野は荷物番兼私の分まで昼飯を買っておいてくれるという事を報告するために戻ってきたという事だ。
「じゃあお言葉に甘えるとするか」
 特にこれが食べたいという強い意思があった訳でも無い。そうい事であればそのまま好意を受け取る事にしようではないか。
「うん。じゃあめぐみちゃんにLINEしておくね」
 そう言って高野はスマホを取り出して画面をちょこちょこと操作していた。程無くして打ち終わったのだろう。スマホを鞄にしまい短いため息を一つ。そのタイミングで高野の目がこちらに向いてばっちりと目が合ってしまう。
 私達は一秒程目を合わせたままどちらからともなく逸らしては、周りに目を向けていた。
 少しだけ手持ち無沙汰で道行く人々を観察するように眺めている。普段こんな時にこんな場所に訪れる事自体無い私にとってはとても新鮮な気持ちだった。
「あ……」
「ん?」
 高野が上げた声に思わず反応してしまう。別に聞こえない振りをしても大丈夫なくらいの、喧騒の中に消え入りそうなくらいの弱々しい呟き。
 私自身もそれに咄嗟に反応を示してしまったので高野の視線のその先を見やる。するとそこには転んで泣いている小さな女の子がいた。
「好きなのか?」
「えっ!?」
 私の呟きに弾かれたようにこちらを見る高野。
「いや……子供。見ていただろう?」
 暫くこちらを見て固まっている高野にそう付け加える。すると再びそのままの姿勢で止まったまま、暫く何かを考えているような顔をして、やがて「ああ」と小さく呟いた。高野は少し時間を掛けてようやく私の言葉を理解してくれたらしい。まあ私も言葉足らずだったのでそこは仕方無しな部分もあるのであるが。
「まあ、嫌いじゃないけど。その、何か似てるなって思って」
 それは恐らく子供の時の自分に重ね合わせた言葉であろう事は予想出来た。
 確かに高野の子供の頃を想像すると、いつも転んで泣いている姿が容易に想像出来てしまった。私は何だかそれが可笑しくて吹き出しそうな気持ちを我慢する羽目になった。
「え? ……君島くん、どうかした?」
 不思議そうに私を見ている高野。こんな事、断じて話す事は出来ない。たが、高野の前で笑う事も正直憚られる。
 結果私は咳き込む振りをして後ろを向いてゴホンッと二回程声を出した。その拍子に再び冷静な表情を作る。
「何でも無い。ただちょっと咳が出そうで苦しかっただけだ」
「え? 大丈夫? 風邪なの?」
 普通に心配そうに私を見ている高野。そんな彼女に若干申し訳無い気持ちがこみ上げてくる。
「あれ? お前ら買いにいかねーの?」
 そうこうしているうちに工藤が戻ってきた。お盆の上には唐揚げ定食らしきものが乗っている。
「あ、いや。椎名がまとめて買ってきてくれるみたいなのでな」
「え!? そうなの!? いや、言ってくれよ!」
「いや、お前がさっさと一人買いに行ってしまうからだろう」
 言った所でどうなるものでも無い気はするが、上手くすれば高野の前にいるのは自分だったかもしれないとでも思ったのだろうか。こんなもの、完全に偶然の産物でしか無いというのに。
「んー、まあいーや。とりあえず腹減ったから先に食うぜっ!」
 工藤は特に深く考えるでもなく、目の前の唐揚げ定食に手をつけ始めた。
「お待たせっ! やっぱり混んでんねー」
 丁度その時お盆に大量のポテトとハンバーガーを乗せた椎名も帰って来た。椎名は手際良くそれぞれのセットを取り分けていく。私と高野はハンバーガーのセット。椎名はダブルチーズバーガーのセットにテリヤキバーガーもついている。
「椎名は……」
「ん?」
 二個も食べるのかと言い掛けて既の所で言葉を呑み込む。流石に女の子にそういう質問は不味いだろう。
「椎名ってけっこう食うんだな」
 と思っていたら隣りで唐揚げにガッツいていた工藤が真っ先にそう告げた。私はかなり内心ヒヤリとしてしまったのだが、思いの外椎名は平気そうであった。
「うん。私も朝から部活でお腹ペコペコだもん。これくらい普通よ」
 
 ケロリと答える椎名を見て私はそういうものなのかと思い直す。その時謀らずも高野と目が合った。彼女のその様子だと、高野も私と同じ事を考えていたような気がした。彼女は一度こくりと頷いた。
 その時ふと私はある事に思い至る。
「そうだ、椎名。お金を払っていなかったな」
 そう言いつつ財布を出す私に、しかし椎名の返答は思っていたものとは違う反応であった。
「ん? あー、君島くん大丈夫よ? 美菜からもうもらってるから」
「え?」
 そう言われ高野を見ると若干顔が赤い。
「あの……勉強のお礼だよ?」
 照れ臭いのか顔を赤くしたまま俯いてしまう高野。私としては悪いとも思ったが、今の高野に断りを入れる方がもっと悪い気がして私はその申し出を素直に受ける事にした。
「そうか……では、有り難く頂戴する」
「うん……」
「しっかしいつの間に高野とそんな約束してたんだ?」
 工藤が訝しげな目で私の方を見てくる。工藤としては抜け駆けをされた気分で面白くは無いのだろう。
「ああ、昨日たまたまそういう話になってな。急遽決まったのだ」
「私がわがまま言ってお願いしちゃったから……」
「……ふーん」
 当たり障り無く答えたつもりが高野がフォローするようにそんな事を言ったものだから工藤は更に不機嫌な様子だ。予期していなかった訳では無いが、少々困ったな。
「まあいーじゃない! そのお陰で私たちも今度君島くんに勉強教えてもらえるんだからさ!」
 
 椎名が見かねたのかそうフォローしてくれる。先程流れでそうなったとはいえ勉強を教える事を受けておいて良かったと今さらになって思う。
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