私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 待ち合わせの時間は一時。大久保駅前で待ち合わせだ。
 工藤はバスケ部、椎名は陸上部。
 共に午前中は部活があると聞いていたので学校から四人て待ち合わせようかという話も昼頃出て、お互い連絡を取り合ったのだが、どちらも汗を掻いてしまったのでシャワーを浴びて着替えたいという事で、一旦家に帰るという話であった。
 仕方なく昼過ぎまで勉強した私と高野はそこから二人で歩いて駅まで行く運びとなった。
 しかし人間慣れとは驚くべきものだ。
 流石に朝から一緒に居続けていれば緊張の糸も幾らか弛むもので、朝学校へ行く時に比べればお互い穏やかな空気感の中で歩いていた。
 風も心地よく吹いて時折空を見上げては雲を眺めたりして、たがそれが手持ち無沙汰という訳でも無い。
 まるで長年一緒にいた二人のような感覚すら覚えるのだから、不思議なものだ。
 

 程無くして駅に着くと、そこにはもう工藤がもう到着していた。
 壁にもたれ掛かって若干不貞腐れているように見えるのは気のせいでは無いだろう。
 それでも高野の姿を見つけると途端に顔を輝かせていた。


「たっ、高野! 今日はありがとなっ!」


「えと……うん。その……よろしくお願いします」


 高野は工藤に詰め寄られて若干戸惑ったように後退り、それでもペコリと礼儀正しくお辞儀をしていた。
 その間二度程こちらをちらちら見ていたが、それにはどんな意味があるのか良く分からず結局黙って見ているしか出来ないでいた。


「ふおー……。やっぱいい娘だ……」


「え?」


「あ、いや! 何でもねえっ! とにかく今日は楽しもうぜ!」


 ビシッとサムズアップを決める工藤を見て少しだけ微笑む高野。未だに緊張の糸はほどけないが、それでも楽しもうという意思はしっかり伝わってくる。


「あれっ!? 何で皆制服なの!?」


 すると後ろで元気な声が掛かった。振り向くとそこには言うまでもなく到着した椎名の姿。
 私は彼女の姿を見て思わず瞳孔を開いてしまう。
 彼女は私服に着替えていたのだ。


 六月初旬にも関わらずデニム生地のショートパンツにスニーカー。上は白いTシャツの上に大きめのカットソー。如何にも女の子らしくスポーティーな格好だ。
 私はその少し日焼けした長い足に目がいってしまって途端に動悸が速まってしまう。


 「おおっ! 椎名! いいじゃん! 超いいじゃん!」


 工藤がジロジロと椎名を見ている。私はそんな工藤に若干のイライラを募らせる。


「あはっ! ありがと!」


 しかし当の椎名はというと工藤の発言に嫌そうな顔をするでもなく素直に喜んでいるようだ。こういう時は工藤のように真っ先に褒めるというのが正解なのかもしれない。
 かといって私がそれを実行に移せるかどうかはまた別問題だが。


「めぐみちゃんごめん。私が気を利かせてそういうこともメールすればよかったね」 


「え? 別に気にしてないよ! そんなことより君島くんと美奈は一緒に勉強してたの? 仲良かったんだ!」


 椎名が私と高野を交互に見ながらそんな事を言ってくる。私は若干焦ったような戸惑ったような、そんな感覚が押し寄せ、更にまた動悸が速まった。


「あ、うん。ちょっと教わったりしてたんだ。」


「へー、ほー」


 椎名の言葉に顔を赤くする高野。どうしてそんな事を言うのだ。高野は嫌がっているのではないか。


「そうだよ! 君島、俺にも勉強教えてくれよ!」


「あっ、確かに! じゃあさ。今度の期末試験前は四人で勉強会しない!?」


「おおっ!? マジかっ! それ名案じゃねーか!」


「でしょ!?」


 椎名が急にそんな事を言い始める。椎名と目が合い、彼女は私を見てにこやかな笑みを作った。その表情を見て私は心臓が止まるかと思う程、その場に立ち尽くしてしまうのだ。何も言えぬまま、話だけが進んでいく。工藤と椎名がこれでもかと盛り上がっていく。そんな二人を見守る高野の表情はここからは伺い知れなかった。何も言わないという事は拒否していないのだろうか。


「よしっ、じゃあ決まりね! 期末テストの前に君島先生に教わるということで!」


「おいっ!」


 皆が一斉に私を見た。余りにも大きな声。それが自分自身が発したものだと気づくのに数秒の時間を要した。自分でも驚く程大きな声を出してしまった。工藤が眉を寄せ、椎名は目を丸くして、最後に高野と目が合った。
 彼女は頬が少し赤みが差しているように見えた。


「……君島くん?」


 静寂を破って椎名が私の名前を呼ぶ。私はしまったと思いつつ、意外にも気持ちは何故か冷静であったのだ。


「……。一日だけだそ」


「いいの? 君島くん?」


 高野が驚いたように声を上げる。今度は間違い無く彼女の頬は蒸気している。それを見た時私はまた少し鼓動が速く脈打つ気がしたのだ。


「……一日だけだぞ?」 


「オッケー! 分かったよ君島! んじゃま、立ち話もなんだし軽く飯でも食いにいこーぜ! 腹減っちまってよー!」


 工藤が静寂を破り飛び上がり、ショッピングモールの方へと駆けていく。


「そうね! 私もお腹空いちゃった!」


 椎名もそれに後からついていく。そんな二人を見て私は思わずフッと笑ってしまった。もしやと思い直後高野の方を見ると、やっぱり目が合った。彼女はその後同じようにフッと笑顔を見せてくれた。

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