私のわがままな自己主張 (改訂版)
「はい。もしもし」
『あの……高野……です』
「あ、ああ」
 私は生返事を返し、沈黙してしまう。電話越しに聴こえる彼女の声も若干緊張しているように思う。一体どうしたというのだろうか。
 電話越しに聞こえる声はいつもの彼女とは別人のように聞こえる。電話の向こうで彼女の息づかいが聴こえてくる。お互いに沈黙していても埒が開かない。私は思いきってこちらから話し掛ける事にした。
「珍しいな。こんな時間に。一体どうしたというのだ」
 珍しいといっても普段の高野を知りもしないでよくそんな事が言えると思いながらも、口からついて出た言葉。今更撤回など出来はしない。
『あ、うん。ごめんね。もしかして、もう寝る所だった?』
「いや。まだ少し勉強してから寝ようかと思っていたところだ。流石にまだ十時前だしな」
 小学生ならばもう寝るような時間かもしれないが高校生にもなって十時に就寝は無いだろう。
『そっか。テスト終わったばかりなのにもう勉強するんだね』
「ああ。普段からコツコツとやるタイプだからな。学年三位は伊達じゃない。私にとってはこれが普通だ」
『そうなんだ。君島くんて昔からそうだった?』
「ん? 昔? それはどの程度の事を言っているのだ?」
『あ、別に、深い意味は無いというか……』
 高野の質問の意図が掴めず聞き返すが、本当に話の流れから口をついて出た言葉程度なのだろう。
 しかし電話とは中々不思議なものだ。
 面と向かってだとあんなに緊張してしまうのに、対面していないというだけで割と普通に話せてしまうものだ。
 電話に出る前はその事が不安の種だったというのに、全く以てそんな事は無かった。
 この調子ならば言いたい事も上手く言葉にして伝えられるのではないだろうか。
「高野」
『うん?』
「あの……この前は済まなかったな」
『え……どうして?』
「私の言葉足らずのせいで嫌な思いをさせてしまったと思うから」
『あ……、ううん。大丈夫』
「私は普段から女の子と話す事自体してこなかった。だから高野と話す事も上手くやれなくて、その……許してほしい」
 自分でも何を情けない事を暴露しているのかと思う。電話越しに高野も戸惑ってしまっているのではないかと感じ、自分で言っておきながらまた墓穴を掘ったような気になった。
 しかし対する高野は私の予想とは違う言葉をくれた。
『私も、だよ?』
「ん?」
『君島くん。私も男の子と話すのはすごく苦手だから、気持ち分かるよ? だから、この事はもう気にしないで?』
「そ、そうか……。高野がそう言ってくれるのなら、私ももうこれ以上気にするのはやめておく」
『うん、そうして?』
 私の中で心の中に溜まった膿のようなものがすっかり無くなっていって、心持ちが晴れやかになっていくのをひしひしと感じていた。
 わだかまりが無くなって、とてもリラックスした気持ちになれた。
 そう思うと不思議なもので、お互いに会話や口数が少なく、沈黙の時間が長くなってしまう事も然程気にはならなくなった。
「ありがとう、高野」
『ううん。どういたしまして』
 声音から高野が微笑んでいるのが分かった。今一高野が微笑む姿が思い浮かべられなかったが、それでも今きっと彼女は微笑んでいる。ほんの少し、彼女の笑顔が見てみたいと思った。
『あ、そう言えば明日は君島くん、駅まで私服で行くの?』
 全く話の方向が変わり、急な質問だ。明日は土曜日なので学校は休み。だが待ち合わせは隣駅の大久保駅となる。
「明日はせっかく学校の近くまで行くので、お昼過ぎに図書室で勉強をして、それから待ち合わせ場所に行こうと思っていてな。だから制服だな」
 学校で勉強すれば集中出来るし余りファッションに関心が無い自分としては制服で行く方が色々気にしなくていい。私としては正に一石二鳥なのである。
『あ、そうなんだね。あの……それじゃあさ』
 高野はそこで少し間を置いた。私はその先を予想出来る訳も無く。
『私も行っていいかな?』
「は?」
 私はつい間の抜けた声を出してしまう。まさか高野がそんな事を言ってくるとは夢にも思わなかったのだ。
 
『迷惑かな……。実は今日出た数学のプリントで分からない所があって、そこ教えてもらってほしいなって……』
 再び緊張してしまう私。今にして思えばそれが言いたくて電話してきたのだろうか。たが今までろくに会話もしてこなかった相手に急にそんな事をお願いしてくるなど、不可思議過ぎやしないだろうか。
 確かに私は数学が得意だ。教えてもらうなら打ってつけというのも分からなくは無い。だが何故私なのだ。
『……やっぱりお邪魔かな』
「あ、いや、大丈夫だ! 私なんかで良ければ!」
 高野の遠慮がちな声につい反射的にオーケーしてしまう。
 ここで断るのも正直どうかと思ってしまうのだ。せっかく仲直りしたというのに。わざわざ自分から再びそれを壊しにいくのは愚策以外の何物でも無い。しかも明日はただでさえ四人で出掛けるというのに。
『そ、そう? ありがとう。えっ……と。何時からやるつもり?』
「十時には学校に行くつもりだったな」
『そっか。じゃあ駅に何時に行けばいい?』
 高野はごく自然に待ち合わせを決めようとしてくる。だが私はその事にも若干動揺してしまう。学校で待ち合わせず一緒に行くという事に。
 まあ確かに同じ目的地に同じ時間に向かうのだから一緒に行く方が合理的ではある。たが果たしてそれで本当に私は上手くやれるだろうか。
『君島くん?』
「あ、ああ。なら九時半に魚住駅でどうだ?」
 頭が追い付かなくて沈黙してしまう私に呼び掛ける高野。私は焦りつつ、考える余裕も無く返事をしてしまう。
『九時半か。分かった』
「じゃ、じゃあそれで大丈夫そうだな」
 
『うん、じゃあ君島くん。明日はよろしくお願いします』
「ああ、そうだな。よろしく」
『じゃあ、おやすみなさい』
「ああ……おやすみ」
 そうしてお互いどちらともなく電話を切った。
 電話を机に置き、椅子に腰掛ける。
 暑い。とても暑い。おまけに動悸は早く、ドクドクと脈打っている。まるで高熱でもあるんじゃないかと思う程にくらくらとして私は机に突っ伏した。
 
「明日……か」
 そう呟く私は暫くドキドキが治まらず、勉強しても手につかず、結局時間だけを潰すように過ごして最後は諦めたように就寝する事にしたのだった。
『あの……高野……です』
「あ、ああ」
 私は生返事を返し、沈黙してしまう。電話越しに聴こえる彼女の声も若干緊張しているように思う。一体どうしたというのだろうか。
 電話越しに聞こえる声はいつもの彼女とは別人のように聞こえる。電話の向こうで彼女の息づかいが聴こえてくる。お互いに沈黙していても埒が開かない。私は思いきってこちらから話し掛ける事にした。
「珍しいな。こんな時間に。一体どうしたというのだ」
 珍しいといっても普段の高野を知りもしないでよくそんな事が言えると思いながらも、口からついて出た言葉。今更撤回など出来はしない。
『あ、うん。ごめんね。もしかして、もう寝る所だった?』
「いや。まだ少し勉強してから寝ようかと思っていたところだ。流石にまだ十時前だしな」
 小学生ならばもう寝るような時間かもしれないが高校生にもなって十時に就寝は無いだろう。
『そっか。テスト終わったばかりなのにもう勉強するんだね』
「ああ。普段からコツコツとやるタイプだからな。学年三位は伊達じゃない。私にとってはこれが普通だ」
『そうなんだ。君島くんて昔からそうだった?』
「ん? 昔? それはどの程度の事を言っているのだ?」
『あ、別に、深い意味は無いというか……』
 高野の質問の意図が掴めず聞き返すが、本当に話の流れから口をついて出た言葉程度なのだろう。
 しかし電話とは中々不思議なものだ。
 面と向かってだとあんなに緊張してしまうのに、対面していないというだけで割と普通に話せてしまうものだ。
 電話に出る前はその事が不安の種だったというのに、全く以てそんな事は無かった。
 この調子ならば言いたい事も上手く言葉にして伝えられるのではないだろうか。
「高野」
『うん?』
「あの……この前は済まなかったな」
『え……どうして?』
「私の言葉足らずのせいで嫌な思いをさせてしまったと思うから」
『あ……、ううん。大丈夫』
「私は普段から女の子と話す事自体してこなかった。だから高野と話す事も上手くやれなくて、その……許してほしい」
 自分でも何を情けない事を暴露しているのかと思う。電話越しに高野も戸惑ってしまっているのではないかと感じ、自分で言っておきながらまた墓穴を掘ったような気になった。
 しかし対する高野は私の予想とは違う言葉をくれた。
『私も、だよ?』
「ん?」
『君島くん。私も男の子と話すのはすごく苦手だから、気持ち分かるよ? だから、この事はもう気にしないで?』
「そ、そうか……。高野がそう言ってくれるのなら、私ももうこれ以上気にするのはやめておく」
『うん、そうして?』
 私の中で心の中に溜まった膿のようなものがすっかり無くなっていって、心持ちが晴れやかになっていくのをひしひしと感じていた。
 わだかまりが無くなって、とてもリラックスした気持ちになれた。
 そう思うと不思議なもので、お互いに会話や口数が少なく、沈黙の時間が長くなってしまう事も然程気にはならなくなった。
「ありがとう、高野」
『ううん。どういたしまして』
 声音から高野が微笑んでいるのが分かった。今一高野が微笑む姿が思い浮かべられなかったが、それでも今きっと彼女は微笑んでいる。ほんの少し、彼女の笑顔が見てみたいと思った。
『あ、そう言えば明日は君島くん、駅まで私服で行くの?』
 全く話の方向が変わり、急な質問だ。明日は土曜日なので学校は休み。だが待ち合わせは隣駅の大久保駅となる。
「明日はせっかく学校の近くまで行くので、お昼過ぎに図書室で勉強をして、それから待ち合わせ場所に行こうと思っていてな。だから制服だな」
 学校で勉強すれば集中出来るし余りファッションに関心が無い自分としては制服で行く方が色々気にしなくていい。私としては正に一石二鳥なのである。
『あ、そうなんだね。あの……それじゃあさ』
 高野はそこで少し間を置いた。私はその先を予想出来る訳も無く。
『私も行っていいかな?』
「は?」
 私はつい間の抜けた声を出してしまう。まさか高野がそんな事を言ってくるとは夢にも思わなかったのだ。
 
『迷惑かな……。実は今日出た数学のプリントで分からない所があって、そこ教えてもらってほしいなって……』
 再び緊張してしまう私。今にして思えばそれが言いたくて電話してきたのだろうか。たが今までろくに会話もしてこなかった相手に急にそんな事をお願いしてくるなど、不可思議過ぎやしないだろうか。
 確かに私は数学が得意だ。教えてもらうなら打ってつけというのも分からなくは無い。だが何故私なのだ。
『……やっぱりお邪魔かな』
「あ、いや、大丈夫だ! 私なんかで良ければ!」
 高野の遠慮がちな声につい反射的にオーケーしてしまう。
 ここで断るのも正直どうかと思ってしまうのだ。せっかく仲直りしたというのに。わざわざ自分から再びそれを壊しにいくのは愚策以外の何物でも無い。しかも明日はただでさえ四人で出掛けるというのに。
『そ、そう? ありがとう。えっ……と。何時からやるつもり?』
「十時には学校に行くつもりだったな」
『そっか。じゃあ駅に何時に行けばいい?』
 高野はごく自然に待ち合わせを決めようとしてくる。だが私はその事にも若干動揺してしまう。学校で待ち合わせず一緒に行くという事に。
 まあ確かに同じ目的地に同じ時間に向かうのだから一緒に行く方が合理的ではある。たが果たしてそれで本当に私は上手くやれるだろうか。
『君島くん?』
「あ、ああ。なら九時半に魚住駅でどうだ?」
 頭が追い付かなくて沈黙してしまう私に呼び掛ける高野。私は焦りつつ、考える余裕も無く返事をしてしまう。
『九時半か。分かった』
「じゃ、じゃあそれで大丈夫そうだな」
 
『うん、じゃあ君島くん。明日はよろしくお願いします』
「ああ、そうだな。よろしく」
『じゃあ、おやすみなさい』
「ああ……おやすみ」
 そうしてお互いどちらともなく電話を切った。
 電話を机に置き、椅子に腰掛ける。
 暑い。とても暑い。おまけに動悸は早く、ドクドクと脈打っている。まるで高熱でもあるんじゃないかと思う程にくらくらとして私は机に突っ伏した。
 
「明日……か」
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