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私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 暦の上では六月に入り、いよいよ梅雨入りかとも思ったが、未だ晴れ間が続く日々。風が心地よく過ごし易い毎日であった。
 明日は土曜。結局工藤、高野、椎名と四人で出掛ける運びとなった。
 私は窓を開け、薄暗くした部屋の窓から空を見上げる。今夜は宝石を散りばめたような星々が煌めいている。そんな景色を眺めながらため息を一つ。それはただ単に星が綺麗だからという訳では無い。私は一人、今日までの日々を振り返っていた。
 本来ならば今の時間はいつも机に向かい、学校の宿題やら授業の復習や予習などをしている。だが、とてもでは無いがそんな気分にはなれない。
 満天の星空を見つめながら物思いに耽る。雲が流れ三日月を覆い隠していく。
 緊張していないと言えば嘘になる。
 今思えばまさかこんな展開になるなど予想してはいなかった。高野に提案した時点で断られて終わりだと思っていたからだ。
 だがそうはならなかった。
 高野は結局行くと言ってくれた。しかもきっと彼女を傷つけた筈なのに。
 傷つけた? いや、何を考えているのだ。そんな考えは傲慢だ。彼女を傷つける理由が無い。だが恥は掻かせてしまったかもしれない。とんだ勘違いをさせて。
 罵られても良かった。私を傷つけてくれたらいっそその方が楽だったかもしれない。
 だが高野はそうしなかった。そうしてはくれなかった。
 それがこんなにも苦しい感情の原因となっているのだろう。


 ふっとため息を溢すと机の上に置いている携帯がブッ、ブッと二回程震えて誰かからのメールの着信を告げてくる。
 そこに目を向けると工藤からであった。そこには一言『明日は気を回せよな!』 という事だけ書かれてあった。
 誰かに気を回す。それは私が最も苦手とする行為だ。
 しかも工藤と高野が話せる環境を作るとなると、必然的に私が椎名と話すタイミングを増やさなければならないという事だ。
 椎名と話す。それを考えた時、また私の胸にもやもやとどうしようも無い程の息苦しさと抑えの効かない衝動的感情が湧き起こってくる。胸に手を当て、その場に蹲ってしまいそうになる思いを既の所で堪えた。
 明日が怖い。
 明日の事を考えれば考える程嫌な事ばかり頭に思い浮かんでしまう。
 本当ならばもっと楽しい気持ちになるべきなのだろうがどうやってもそんな想いは湧いてきてはくれなかった。
 不安、焦り、後ろめたさ。そんな負の感情が今私の胸の中に渦巻いて嵐のように心の中をぐちゃぐちゃに掻き乱すのだ。
 突然手の中の携帯電話が再び震えだした。
 私はすぐにその震動がメールでは無く電話の着信を告げるものだと気づく。ふと工藤かと思ったが、ディスプレイを確認した私はドキリとした。
 まさか、こんな時間に一体どうしたというのだ。
 
『高野 美奈』


 ディスプレイにはそう映し出されている。
 私達四人は遊びに行く約束をした後、互いに携帯の番号を交換する事になった。椎名と工藤からの提案で、何かと必要だろうとごくごく自然な流れでそうなったのだった。
 もしこれが私と高野だけだったのならばそうはならなかっただろう。四人揃っての会話の中でさも当たり前のようにそうなった。
 内心戸惑いはあったがやはり当日や前日何か問題が起きた時など連絡先を知っているのとそうでないのとでは雲泥の差がある。
 結果的に互いの連絡先を知る間柄となった事には納得している。
 だが正直これは予想していなかった。
 こんなタイミングで高野から直接私に連絡があるなどと。
 あの日、高野が私達と一緒に出掛けると言ってくれた日から、私は少し高野に後ろめたい気持ちがあった。
 変な気を使わせてしまったと。高野の優しさの甘えてしまったと。
 本来ならばもっときちんとした形で謝罪せねばならないかもしれないと考えていた。
 その気持ちは今も変わっていない。
 今でも高野に申し訳無かったと、そう思っている。
 だからその事は伝えた方がいいのかもしれない。
 この電話で、要件はよく分からないが、もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。
 だから今すぐ電話に出るべきなのだろう。
 だが、本当にそれでいいのか。
 普段面と向かってすらまともに話せない相手に電話で、声だけで、果たして伝えたい事を上手く伝えられるだろうか。
 そこには不安しか無い。
 けれど伝えるなら四人の時より二人だけで話している今の方がいいに決まっている。というか今しか無い。
 そんな事を考えている間もずっと携帯は呼び出しのコールを響かせ続けている。
 このまま出ないなどという事をすればもっと感じが悪くなるのではないか。いや、もし切れてもすぐに掛け直せばいい。そんな行動が直ぐ様実現可能なのであればの話だが。


「……ふー」


 あれやこれやと考え抜いた末、私はコール音を七、八回響かせた所で画面に置いた指を横にスライドさせたのだった。



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