話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 そこから最寄り駅までの下校は何だか少しの緊張はあったのだが、ポツポツとどちらからともなく会話が出来ていたように思う。
 何故かは分からないが高野の緊張が以前に比べて大分薄まったように感じるのは気のせいだろうか。
 前回の下校時には殆ど見られなかった笑顔も今回は数回出て来て私はふと工藤が高野の事を可愛いと豪語していた気持ちにも妙に納得してしまった。
 嫌、だからと言って疚しい気持ちがあるとかそう言った感情は断じて一切無いのだが。


「それでは、ここで」


 私は前回のように魚住駅前で高野に別れを告げる。


「あ……うん」


 心無しか高野の表情も言葉尻も歯切れが悪いような気がした。先程まであんなに普通に話せていたというのに。
 私も怪訝に思いその場を去らず高野の顔を見つめてしまう。
 そんな時、ふと二人の目が合った。高野は驚いたように目を見開く。だが今はいつものように直ぐその視線を外す、という事は無かった。やはり、何か言いたげだ。
 暫くそのまま待っていると高野はやがて意を決したように口を開く。


「君島くん、あのね。携帯の番号、交換しませんか?」


「携帯……あ」


 私はそこで高野の意図をようやく理解する。


「週末どこか行くにしても色々と細かい連絡とか必要になると思うから。その、学校だと話す機会が少ないかなって……」


 確かに私達は普段学校で必要以上に話す機会に乏しい。今日のように図書委員の当番の日はその限りでは無いが週末までそんな機会は訪れない。当日も当日で何かと連絡先を知っていた方が便利だ。
 それを考えると私は椎名はいいとしても工藤の連絡先すら知らぬ事に思い至る。
 これでは土日で四人で出掛ける事など実現困難なような気がしてきた。
 というかそもそも……。 


「あ……高野!」


「え!? 何かな!?」


 私は今更になってとんでもない過ちを犯した事に気が付く。
 どうしてこんな事にここまで気が付かなかったのか。内心冷や汗と申し訳無さでクラクラする思いが胸に渦巻いていた。
 当の高野は突如大きな声を上げた私の続く言葉を待ってくれている。
 高野は恐らく、今大きな勘違いをしている。勘違いとは言っても完全に私のせいなのだが。
 それでも今となってはその事を彼女に伝えるのが物凄く憚られた。普通に考えればそっちの方がいいに決まっている。安心だろうし気が楽な筈だ。だが彼女はそれでも行くと言ってくれたのだ。そこから再び話を二転三転させるような事になって大丈夫なのだろうか。
 だが当初の目的と外れる結果となってしまっている以上私にはこの事を彼女に伝えるという選択肢しか無いのであった。


「あの、高野。……大変申し訳無いのだが……」


「え……うん」


 私はせめて、高野からは目を逸らさずに伝える事にした。誠実にならなければ彼女に申し訳無い気がして。


「週末出掛ける話なのだが、工藤と椎名も一緒にどうかという話なのだ」


「え? ……」


 狐につままれたような表情とは正にこの事だ。私は深い自己嫌悪に陥る。これではまるで意地悪な悪戯のようだ。


「あ……私」


 みるみる内に高野の顔が真っ赤になっていく。それはきっと斜めに降り注ぐ夕焼けの光せいとかでは無く。


「高野……!?」


 彼女の目から突然ぽろぽろと涙が溢れだして、私の声に反応してそこでようやく今自分が涙を流している事に気づいたらしい。
 必死で手で拭おうとするがそれは止まる事も無く。


「あれ? 私……どうしちゃったんだろ……ほんと……ご、め……」


 そう言って高野は振り返りそのまま走り去ってしまう。
 私は成す術無くその背中を見つめる事しか出来ないでいた。
 


「私のわがままな自己主張 (改訂版)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く