私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 時間の流れというものは実に早い。特にテストというものがある場合はあっという間だ。毎日テスト勉強に明け暮れていれば気が付けばテスト当日となり、テスト期間はひたすら問題を解いていれば終わっていくのだから。
 人間年を取る程に時間の流れが早く感じるという。今ですらこんなに早いと思えるのに自分が中高年となった時、一体どれほどの早さに感じてしまうのか。想像しただけでげんなりとした心持ちになってしまう。今からそんなしなくてもいい心配をしている辺り私は回りの同年代に比べて年寄りくさいのではないか。少なくともそんな答えのない答えを何気なく模索してしまう程には、などと思ってしまうのだ。


 中間テストは国語、数学、理科、社会、英語の五教科を二日かけて行われた。一日目に三科目、二日目は残りの二科目をやった後、一時間ホームルームが行われて解散となる。
 今はそのホームルーム中であった。


 今の時間は再来週に行われる球技大会に向けて、それぞれ誰がどの種目に出るかを決めている最中である。
 男子は綾小路が、女子は椎名が三つの種目から出る人をそれぞれ男女に分かれて決めている最中だ。


 男子は野球、バスケットボール、バレーボールの中から最低一つ選んで出場することになっている。ちなみに女子はバスケットボール、バレーボール、卓球だ。


 私は運動自体は不得意という訳では無いが、如何せん普段から体を動かすという事をしていない。
 そんな輩が運動部の面々と張り合える訳も無いので、競技はどれでもよく、人気のないバレーボールに真っ先に立候補して早々に輪の中から外れていた。


 そうして時間を持て余していた私は教室の隅で窓の外に目を向けながら一人耽る。この短い期間に少し変化があったからか。
 今週に入ってから椎名が朝、挨拶に私の所へ来る際、一緒に高野を連れてくるようになった。
 先週末のお泊まり会とやらで一層仲良くなり、高野と私がそれなりに会話する所を見たからだろう。


 私としては椎名と二人で面と向かって話すのも気まずかったが、高野が加わり朝から女子二人に囲まれて話している構図というのが出来上がってしまった事に若干の抵抗があり、正直困り果てていた。
 本当は構われずにいる方が楽なのだが、邪険にしてこの先気まずくなるのも得策では無い。かといってあまり友好的にするのもどんどんと接点が増えてしまう気がして乗り気になれない。程々の距離感というものが一番とは思うのだが実際その程々の距離感というものがどういう事を差すのか全く分からないのである。
 結果的に私達は程々には会話する間柄、と言える程の関係には発展してしまったように思う。
 この先もこの調子で会話する機会を設けていくと一体どうなってしまうのか。
 それを考えるだけで胸の奥がきゅっと締め付けられるような苦い感覚が身体を支配するのだった。


 そんな事をうだうだ考えていると、チーム分けが決まったようであった。皆ぞろぞろと席につき始めたので私も頃合いと思い席に戻った。
 その後程無くしてホームルームは終了。皆が解散した後綾小路と椎名が先生にチーム分けを書いた紙を提出していた。先生がそれを受け取り二人も席に鞄を取りに戻っていった。
 その間二人の様子をそれとなく見ていたが、お互い特に気にした様子も見受けられず、一言二言言葉を交わしている姿も見て取れたので何も問題は無いように感じられた。
 流石に先週二人が高野を交えて言い合っていたのを目撃した時はその後の事が心配になったが、取り越し苦労だったようである。


 私はもう特に用も無いと思い、帰宅しようと鞄を持ち席を立つ。 
 そんな時だった。


「あー、君島。ちょっといいか?」


 工藤だ。珍しく神妙な面持ち。いつもうるさい工藤であるのにこの落ち着きようは何だ。正直気持ち悪いくらいだ。別に口には出さないが。


「どうしたのだ? よっぽどテストが出来なかったのか?」


「いやちげーしっ! ちゃんと赤点は免れたっての!」


 どうやらテストの事は関係無いらしい。工藤が勉強以外の事で私に話があるとは一体どういう了見か。


「ではなんだ? どうしたのだ?」


「あー、ちょっとここじゃあ話しづらいな。場所変えてもいーか?」


 すると思いの外勿体つけてくるではないか。今一予想がつかないがふざけている訳では無いようであるし。話くらいは聞いてやるとするか。面倒事であれば断ってしまえばいいのだ。


「わかった。手短にな」


「ああ」


 工藤は身を翻し教室を出ていく。
 今思えば私は何故この時黙って後をついていったのか。そんな後悔は後になってから気づくものなのだ。

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