私のわがままな自己主張 (改訂版)
 その後はテスト勉強。
 一時間半くらいしたらお母さんがおやつにクッキーと紅茶を持ってきてくれた。
 なんとお母さんが焼いてくれたやつらしく、それがすごく胃に染みて、脳に糖分が行く感じで、甘くて美味しかった。
 お母さんに美味しいって伝えるとすごく喜んでくれて、そしたらまた美奈が
「お母さん。社交辞令です」
って突っ込んでた。
 それでお母さんが拗ねて「ふーんだ!」といいながら部屋から出ていくのを見て美奈も「ふーんだ!」って同じように言ってて、ホントに仲いいんだなーって笑ってしまった。
 美奈はまたそれで、「あ……う……」って真っ赤になってたけど。
 そこからさらに二時間程経過した。勉強の後は皆で夕食だ。本当にこんなにまともに真剣に勉強したのは久しぶりだったので頭はぼうっとしてお腹はペコペコだった。たぶん美奈にとっての私は副委員長ということもあってきっとそれなりに真面目なイメージで通っていると思うのでそのことは内緒だ。まあそのうちバレるとは思うけれど、いちいち自分から普段全然勉強してないのよねーとかカミングアウトする必要はないだろう。
 リビングに下りるとお父さんはまだ帰っていないみたいだった。聞くところによると仕事でいつも九時くらいまでは帰らないんだそうだ。
 それでもお父さんのことを話す美奈の表情も朗らかで和やかで、きっと大好きなんだろうなあと思うと少しだけ羨ましい気持ちが込み上げた。そんなことももちろん全くおくびには出さなかったけれど。
 夕食はお母さんの手料理。ご飯と肉じゃがに豆腐とわかめのお味噌汁、玉ねぎのサラダに玉子焼き、鮭にきゅうりとなすのお漬け物とすごく家庭的な晩御飯だった。なんだか温かい家庭って感じがして私は好き。バランスも考えられてて、肉じゃがもじゃがいもはほくほくで、お肉も味がすごく染みてて美味しかった。
 その後お風呂をいただく前に、駅前のコンビニに行くことにした。うっかり携帯の充電器と歯みがきセットも忘れちゃって、着替えはあるけれど、私ってそういうとこががさつなんだよなー。
 コンビニは歩いて五分。駅前だから当たり前なんだけど、夜の道を友人歩くのって、何だかそれだけで特別な宝物のような時間のような気がしてとっても嬉しくなった。
 美奈もそれは同じだったらしく、途中目が合ってお互いにクスクス笑い合ったりして。
 終始笑顔な彼女の表情がとっても印象的だった。
 程なくしてコンビニに到着。夜とはいえ場所は駅前。仕事帰りのサラリーマンやOLがちらほらといて、思っていたよりはコンビニはお客さんでごった返していた。店員さんもずっとレジに張りつきっぱなしで忙しそうにしている。
 そんな中、入り口入ってすぐの所で美奈が少し大きめの声を出した。
「君島くん!」
 突然のことで私もびっくりしたけれど。今彼女、何て言っただろうか。
 きみしまくん?
 通路を覗きこむと、そこに黒のパーカーにジーンズ姿の君島くん。やっぱりあの君島くんだ。
「おお、高野ではないか。偶然だな」
 振り向いて開口一番美奈に普通に話している姿を見て、少し違和感を感じてしまう私。すると次の瞬間彼と目が合った。
 彼は驚いたように目を見開いた後、こくんと会釈してきた。
「こんばんは」
 と一言だけ挨拶。すると美奈も私の方をちらと見た。
「あ、今日はめぐみちゃんとテスト勉強してお泊まりなんだ」
「そうなのか。二人とも仲がいいのだな。しかし、友人同士で勉強して集中力がお互い削がれたりしないものなのか?」
「んー? 意外にそうでもないよ? それは勉強する気があるかどうかの問題じゃないかな」
「そういうものなのか。しかし、こんな時間にコンビニとは、どうしたのだ?」
「あのね。めぐみちゃんが歯みがきセットと携帯の充電器忘れちゃって、あと夜食なんかも買いにきたの。君島くんは?」
「ああ。私も携帯の充電器を買いに来た。母親が充電器が壊れたとかで、コンビニまで買いに来させられたわけだ。しかし……」
 そう言うと君島くんはチラッと私の方を見た。
「充電器……、一つしかないのだが」
 ちょうど君島くんが手に持っているので最後らしい。
「あ、気にしないで!? それ買って帰らないと君島くん何しに来たかわかんないし、お母さんに怒られちゃうでしょ? それに一日くらい充電も持つし、私そんなに携帯とかいじらないし?」
 まあどちらかというと私の場合、夜食の方が重要だったりするから別に嘘は言っていない。しばらく考え込んだ後、君島くんは呟くように言った。
「……そうか。すまないな。ではお言葉に甘えようか」
「だいじょぶだいじょぶ! 気にしないで?」
 それだけ話すと君島くんは私たちからは目を逸らし、チラッと外の方に視線をやって、また戻す。
「あー。高野……と椎名。テスト勉強頑張ってな。それでは私はもう行くのだ。……おやすみ。」
「おやすみ……」
 そう言うと私たちの横をすり抜けてコンビニから出て行こうとする。そこで私はおかしな点に気づいた。
「あっ。君島くん!?」
 声を掛けようと思ったら、先に美奈が君島くんに声を掛けた。その声に顔だけ横にして振り向く君島くん。
「ん? どうしたのだ? まだ何かあるのか?」
「あの……、それ、まだ買ってないよね?」
「……あ」
と間の抜けた声を出す。何だか色々と……。私は思う所はあれど二人のやり取りを黙って見ていた。
 レジに行き、今度はちゃんとお会計を済ませた。
 別れ際、君島くんは律儀にももう一度「おやすみ」と言って出て行こうとした。そしたらまた美奈が君島くんに声を掛ける。近くにいる美奈の「はっ」と短く吐く息づかいが聞こえた。
「君島くんっ」
 その声に足を再度止めて振り向く君島くん。
「あのっ……また学校でね。おやすみなさい」
 後ろで見ていてふと美奈の手を見ると、ぎゅっと握られた拳が微かに震えているように見えた。
「ああ、それではな」
 美奈の言葉を聞いた君島くんは最後ふっと柔らかな笑みを作って言葉を返し、今度こそ家へと帰っていった。
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 コンビニを出て家までの帰り道。美奈は少し寄り道しようと私に行ってきた。踏切を渡る直前の道を右に折れて少し行くと、そこは古ぼけた公園だった。
 夜の公園は何だかもの寂しい。昼間は子供たちで賑わうのだろうけれど、今はブランコも砂場も滑り台も、その全てが夜の風景を静観にさせるための必需品のように感じられる。
 公園の中に入るとまっすぐにブランコの所に行き座り込んだ美奈。キーキーとブランコを控え目に漕ぐ音が夜の静けさをより一層引き立てる。ふと空を見上げると星が瞬いていた。
 私も美奈の隣のブランコに座り、ゆっくりと漕ぎ始める。二つのブランコはお互いに振り子運動を始め、一つは活発に、一つは控え目に弧を描き前後を行ったり来たりしている。
 横にいる美奈の口からふっとため息が聞こえた。
「ねえ美奈?」
 私はブランコを漕ぐのを止めず、そのままの勢いを保ち続ける。ブランコはギーコーギーコーと懐かしい音を脳内に響かせていた。
 そんな私を美奈はブランコを止めて静かに見ていた。
「美奈って君島くんとすごーく仲がいーんだね?」
 私の言葉に美奈はあからさまにビクッと肩を震わせた。暗くてよくは見えないけれど、たぶん顔も真っ赤になっているだろうことは想像に難くない。
「え!? そ、そんなことないよ!? 普通だよ!? な、何でそんなこと聞くの!?」
 いつになく早口な美奈。私は思わず苦笑してしまう。
「ほっ!!」
 勢い良くブランコから飛び降りる私。スタッと華麗に着地を決める。伊達に陸上部やってない。私は満天の星空を見上げながらすっと立ち上がる。
「べっつにー」
「えっ!? ちょっと待って!? めぐみちゃん!!」
 ポケットに手を入れて、そのまますたすたと公園を出ていこうとすると美奈は慌てて私の後をついてきた。
 一時間半くらいしたらお母さんがおやつにクッキーと紅茶を持ってきてくれた。
 なんとお母さんが焼いてくれたやつらしく、それがすごく胃に染みて、脳に糖分が行く感じで、甘くて美味しかった。
 お母さんに美味しいって伝えるとすごく喜んでくれて、そしたらまた美奈が
「お母さん。社交辞令です」
って突っ込んでた。
 それでお母さんが拗ねて「ふーんだ!」といいながら部屋から出ていくのを見て美奈も「ふーんだ!」って同じように言ってて、ホントに仲いいんだなーって笑ってしまった。
 美奈はまたそれで、「あ……う……」って真っ赤になってたけど。
 そこからさらに二時間程経過した。勉強の後は皆で夕食だ。本当にこんなにまともに真剣に勉強したのは久しぶりだったので頭はぼうっとしてお腹はペコペコだった。たぶん美奈にとっての私は副委員長ということもあってきっとそれなりに真面目なイメージで通っていると思うのでそのことは内緒だ。まあそのうちバレるとは思うけれど、いちいち自分から普段全然勉強してないのよねーとかカミングアウトする必要はないだろう。
 リビングに下りるとお父さんはまだ帰っていないみたいだった。聞くところによると仕事でいつも九時くらいまでは帰らないんだそうだ。
 それでもお父さんのことを話す美奈の表情も朗らかで和やかで、きっと大好きなんだろうなあと思うと少しだけ羨ましい気持ちが込み上げた。そんなことももちろん全くおくびには出さなかったけれど。
 夕食はお母さんの手料理。ご飯と肉じゃがに豆腐とわかめのお味噌汁、玉ねぎのサラダに玉子焼き、鮭にきゅうりとなすのお漬け物とすごく家庭的な晩御飯だった。なんだか温かい家庭って感じがして私は好き。バランスも考えられてて、肉じゃがもじゃがいもはほくほくで、お肉も味がすごく染みてて美味しかった。
 その後お風呂をいただく前に、駅前のコンビニに行くことにした。うっかり携帯の充電器と歯みがきセットも忘れちゃって、着替えはあるけれど、私ってそういうとこががさつなんだよなー。
 コンビニは歩いて五分。駅前だから当たり前なんだけど、夜の道を友人歩くのって、何だかそれだけで特別な宝物のような時間のような気がしてとっても嬉しくなった。
 美奈もそれは同じだったらしく、途中目が合ってお互いにクスクス笑い合ったりして。
 終始笑顔な彼女の表情がとっても印象的だった。
 程なくしてコンビニに到着。夜とはいえ場所は駅前。仕事帰りのサラリーマンやOLがちらほらといて、思っていたよりはコンビニはお客さんでごった返していた。店員さんもずっとレジに張りつきっぱなしで忙しそうにしている。
 そんな中、入り口入ってすぐの所で美奈が少し大きめの声を出した。
「君島くん!」
 突然のことで私もびっくりしたけれど。今彼女、何て言っただろうか。
 きみしまくん?
 通路を覗きこむと、そこに黒のパーカーにジーンズ姿の君島くん。やっぱりあの君島くんだ。
「おお、高野ではないか。偶然だな」
 振り向いて開口一番美奈に普通に話している姿を見て、少し違和感を感じてしまう私。すると次の瞬間彼と目が合った。
 彼は驚いたように目を見開いた後、こくんと会釈してきた。
「こんばんは」
 と一言だけ挨拶。すると美奈も私の方をちらと見た。
「あ、今日はめぐみちゃんとテスト勉強してお泊まりなんだ」
「そうなのか。二人とも仲がいいのだな。しかし、友人同士で勉強して集中力がお互い削がれたりしないものなのか?」
「んー? 意外にそうでもないよ? それは勉強する気があるかどうかの問題じゃないかな」
「そういうものなのか。しかし、こんな時間にコンビニとは、どうしたのだ?」
「あのね。めぐみちゃんが歯みがきセットと携帯の充電器忘れちゃって、あと夜食なんかも買いにきたの。君島くんは?」
「ああ。私も携帯の充電器を買いに来た。母親が充電器が壊れたとかで、コンビニまで買いに来させられたわけだ。しかし……」
 そう言うと君島くんはチラッと私の方を見た。
「充電器……、一つしかないのだが」
 ちょうど君島くんが手に持っているので最後らしい。
「あ、気にしないで!? それ買って帰らないと君島くん何しに来たかわかんないし、お母さんに怒られちゃうでしょ? それに一日くらい充電も持つし、私そんなに携帯とかいじらないし?」
 まあどちらかというと私の場合、夜食の方が重要だったりするから別に嘘は言っていない。しばらく考え込んだ後、君島くんは呟くように言った。
「……そうか。すまないな。ではお言葉に甘えようか」
「だいじょぶだいじょぶ! 気にしないで?」
 それだけ話すと君島くんは私たちからは目を逸らし、チラッと外の方に視線をやって、また戻す。
「あー。高野……と椎名。テスト勉強頑張ってな。それでは私はもう行くのだ。……おやすみ。」
「おやすみ……」
 そう言うと私たちの横をすり抜けてコンビニから出て行こうとする。そこで私はおかしな点に気づいた。
「あっ。君島くん!?」
 声を掛けようと思ったら、先に美奈が君島くんに声を掛けた。その声に顔だけ横にして振り向く君島くん。
「ん? どうしたのだ? まだ何かあるのか?」
「あの……、それ、まだ買ってないよね?」
「……あ」
と間の抜けた声を出す。何だか色々と……。私は思う所はあれど二人のやり取りを黙って見ていた。
 レジに行き、今度はちゃんとお会計を済ませた。
 別れ際、君島くんは律儀にももう一度「おやすみ」と言って出て行こうとした。そしたらまた美奈が君島くんに声を掛ける。近くにいる美奈の「はっ」と短く吐く息づかいが聞こえた。
「君島くんっ」
 その声に足を再度止めて振り向く君島くん。
「あのっ……また学校でね。おやすみなさい」
 後ろで見ていてふと美奈の手を見ると、ぎゅっと握られた拳が微かに震えているように見えた。
「ああ、それではな」
 美奈の言葉を聞いた君島くんは最後ふっと柔らかな笑みを作って言葉を返し、今度こそ家へと帰っていった。
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 コンビニを出て家までの帰り道。美奈は少し寄り道しようと私に行ってきた。踏切を渡る直前の道を右に折れて少し行くと、そこは古ぼけた公園だった。
 夜の公園は何だかもの寂しい。昼間は子供たちで賑わうのだろうけれど、今はブランコも砂場も滑り台も、その全てが夜の風景を静観にさせるための必需品のように感じられる。
 公園の中に入るとまっすぐにブランコの所に行き座り込んだ美奈。キーキーとブランコを控え目に漕ぐ音が夜の静けさをより一層引き立てる。ふと空を見上げると星が瞬いていた。
 私も美奈の隣のブランコに座り、ゆっくりと漕ぎ始める。二つのブランコはお互いに振り子運動を始め、一つは活発に、一つは控え目に弧を描き前後を行ったり来たりしている。
 横にいる美奈の口からふっとため息が聞こえた。
「ねえ美奈?」
 私はブランコを漕ぐのを止めず、そのままの勢いを保ち続ける。ブランコはギーコーギーコーと懐かしい音を脳内に響かせていた。
 そんな私を美奈はブランコを止めて静かに見ていた。
「美奈って君島くんとすごーく仲がいーんだね?」
 私の言葉に美奈はあからさまにビクッと肩を震わせた。暗くてよくは見えないけれど、たぶん顔も真っ赤になっているだろうことは想像に難くない。
「え!? そ、そんなことないよ!? 普通だよ!? な、何でそんなこと聞くの!?」
 いつになく早口な美奈。私は思わず苦笑してしまう。
「ほっ!!」
 勢い良くブランコから飛び降りる私。スタッと華麗に着地を決める。伊達に陸上部やってない。私は満天の星空を見上げながらすっと立ち上がる。
「べっつにー」
「えっ!? ちょっと待って!? めぐみちゃん!!」
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