私のわがままな自己主張 (改訂版)
 中間テスト前の最後の土日。
 急遽美奈の家にお呼ばれしてお勉強会という名目のお泊まり会をすることになった私。
 今にして思えばこんな展開予想もしてなかった。別に嫌とかじゃない。どちらかというと嬉しくて小躍りしてしまいそうなほどに私のテンションは上がっている。ただあの引っ込み思案な美奈があんなことを言うなんて、本当に意外で、すごくびっくりしたから。
 時間は金曜日の昼休みに遡る。
 美奈と机をひっつけて昼食を取っていた私たち。
 そんなお昼のゆるりとした時間を引き裂くように、何回目になるだろうか、また綾小路くんがやって来た。
「やあめぐみ。ご機嫌はどうだい?」
 綾小路くんはいつもこんな風に変わった切り出し方をしてくる。これは私の固定概念かもしれないけれど、ちょっとキザな感じがして苦手。髪を掻き上げる仕草とか、たまに手鏡で自分の顔や髪型を気にしているところとか、とにかく自分のことが大好きなんだろうなあっていうのが伝わってくる。だから私がこんなに誘いを断っているのに気にも留めず何度も言ってくるのだろう。
 
「あ。綾小路くん、どうしたの?」
「またそんなとぼけたふりをして、つれないなー。めぐみ、僕とのデートのことちゃんと考えてくれてるかな?」
 さあ、今日も来たよ。
 私はすっとぼけた振りをしながらも頭の中では断りの文句をどうするかばかり考えている。
 いつもいつも用事がありますって言うだけじゃ、さすがに彼も引き下がらなくなってきそうな気がしている。
 綾小路くんは背も高くて、顔も目がスッとしたイケメンだ。おまけに物腰も柔らかくてクラスの女子にも人気がある。そんな彼に度々今度一緒にどこかに行こうといわゆるデートのお誘いを幾度となく受けている。
 他の女子からしたら羨ましい事この上ないだろうし、断る理由なんてないでしょって怒られそうだけれど。正直乗り気じゃない。
 私なんかじゃなくてもっと他の娘の方がいいんじゃない? とか思うのは贅沢だろうか。
 こんなに誘われているのだし、一度行ってしまえばいいだけの話かもしれないけれど、やっぱりそういう事は軽々しく行ってもじゃあ次は? じゃあ次は? ってなってしまっていい事はなさそうだし。行きたい理由が無いならきっと後々後悔すると思う。
 特に男の人と初めての二人きりのお出かけなのであれば尚更好意がある人とがいい。彼が嫌いってわけじゃないけれど、好きかと言われると、やっぱり違うって答えるし。
「なはははは。どーしても行かなきゃだめー? 私、こー見えてもけっこう忙しかったりするんだよなーなんて? 部活とか? 委員会の仕事とか? 勉強とか?」
 あー。私ってば何はぐらかしてんだろう。張り付けた笑顔の裏で自嘲気味になる。結局私はキッパリと断る事が怖いのだ。
 彼は同じクラスだし、これからも最低一年はこの共有スペースで過ごしていくのだし。余り悪い印象を与えると後々面倒くさそうなのだ。それに他の女子にも人気が高いし、彼の誘いを無下にしたと知れたら何を言われるか分からない。というかもう多少は気づいていて若干恨まれているかもしれない。そしたらもう手遅れじゃないか。
「気になる女の子を誘うことがそんなにいけないかな? 今はテスト前で土日は部活も委員会もないだろう? 勉強もするべきだろうけど、起きてる間ずっと根を詰めてやるとか逆に効率も悪くなるんじゃないか? 少し休憩がてら土曜日の昼間だけでも付き合ってくれないかな?」
 私の考えなんてお構い無し。
 やっぱり今日の綾小路くんはいつものように引いてはくれなかった。テスト前、普通の学生であればやることといえばテスト勉強くらいしかない、というようなタイミングで声を掛けてきたのだ。
 バイトでもしていれば別だけれど、私の予定は特に埋まっていない。断るということは必然的に行きたくないと思われても仕方がない状況だ。たぶん彼にそんな選択肢を私が選ぶという可能性を想像することなんて無いのだろうけれど。
「あ、あのっ!」
 私が返答の困って口を嗣ぐんでいると、ずっと黙って話を聞いていた美奈が急に話に割り込んできた。
 綾小路くんはすっと美奈に視線を移す。その顔に偽物のような笑顔を張り付けたまま。
「ん? 高野さん、君には関係のない話なんだから、口を挟むのは野暮ってもんじゃないかな?」
 そんな言い方をされて、美奈は一瞬びくんと肩を震わせた。普段から積極的に人と会話しようとはしない彼女。いつもならあっさりと謝って終了、という姿が容易に想像出来たけれど、この時はそれで引き下がらなかった。
「その、……ごめん。えっと……明日はめぐみちゃん、……私の家にお昼から来て、そのっ、一緒に勉強して、……お泊まりする約束があるから……。その……無理……です……。」
 美奈は段々と俯きながら、小さくなりながらも途切れ途切れそんな事を話した。勿論そんな約束はしていない。きっと美奈なりに私の心中を察して気使ってくれての行動なのだろう。その一生懸命さに私は胸が熱くなる。
「そうなのかい? めぐみ?」
 口から出任せだろうと言わんばかりの表情で私に確認を取ってくる。その綾小路くんの態度を目の当たりにして、私は今までの自分を恥じた。
「あのさ、綾小路くん。申し訳ないんだけど、何度言われても綾小路くんの誘いは受けられない。ううん。受けない。最初からはっきり言えばよかったよね。それもごめん。とにかくさ。もうこうやって誘うのはやめて。迷惑なの。」
言っちゃった。言ってしまった。言いすぎ?ううん。でも後悔はしてない。スッキリした。私は綾小路くんの目をしっかりと見据えた。
 すると彼は何を言われたのか分からなかったようで、一瞬呆けたような表情をした後、唇をわなわなと震わせた。
「……そ、そうか。そうなのか……。うん、うん、そうだったんだね……。わかったよ。じゃあな!」
 それだけ告げてそそくさと行ってしまう綾小路くん。
 もしかしたら激怒するかとも思って、内心ビクビクしたけれど、どちらかというとはっきり言われてようやく気づいたって感じだったように思える。何なら今のやり取りを遠巻きに見ていたであろう女子たちの方が気に掛かったくらいだ。
 何にせよ一件落着だろうか。
「あ、あの……めぐみちゃん」
「美奈っ! ありがと!」
「きゃわっ!?」
 申し訳なさそうに私の顔を覗き込む美奈を見ていると、考えるよりも先に手が出て思わず彼女に抱きついてしまった。
 てゆーかホントに感動した。
「めっ、めぐみちゃん……痛いよ……」
 きつく、ぎゅっと抱きしめる。抱きしめながら、ふと思った。
「美奈……」
「ん?」
「けっこう胸あるんだね。着痩せするタイプか。」
「うん。……え!? 何言って……っ!?」
 途端に顔を真っ赤にして慌てふためく美奈は、本当に可愛いくて、愛おしくて。
 私のために話すのが苦手なのに勇気を出してくれて。背中を押してくれて。こんな事ってある? こんな私のために。
 もうこれは私の親友確定だ。
 本当に、この娘の事が大好きになってしまった。
「あ……でも、……余計なこと言ってごめんね。……迷惑、だったよね?」
「何言ってんの! ばか! すっごい感動したよ! 私こそ余計な気を使わせてごめん! 心配してくれて、すっごい嬉しかったよ!」
 そう言うと、美奈は一度、ハッとした表情を見せた後、嬉しそうに、
「そうなんだ。嬉しかったんだ。やっぱり言う通りだった……」
 って呟いた。その言葉の意図はよく分からなかったけれど、今の美奈の表情は何だか今まで見てきたどんな表情よりも可愛くて、そして綺麗だった。
 しばらく彼女の顔を見つめていると程なくして私の視線に気づいた彼女はもういつもの恥ずかしがり屋な女の子に戻っていた。
「な、なんでもない……です」
 何で敬語? って思ったけれどそれは置いておく事にした。ただ同時に思う事があって私は思いきって美奈にその話を切り出してみる事にした。
「美奈、あのさ」
「ん?」
「さっきの話、なんだけどさ」
「?」
 私の言葉に今一得心がいっていないようで顔にはてなが浮かんでいる。私もちょっぴり恥ずかしかったりはするのだけれど。
「明日、お泊まりに行ってもいいの?」
「あ! ……」
 そこでようやく彼女は私の意図する所を理解したみたいで。
「いいよ!」
 と一言。今日一番の笑顔で言ってくれた。
 こうして私たちは、週末美奈の家でお泊まり勉強会をする事になったってわけなのだ!
 急遽美奈の家にお呼ばれしてお勉強会という名目のお泊まり会をすることになった私。
 今にして思えばこんな展開予想もしてなかった。別に嫌とかじゃない。どちらかというと嬉しくて小躍りしてしまいそうなほどに私のテンションは上がっている。ただあの引っ込み思案な美奈があんなことを言うなんて、本当に意外で、すごくびっくりしたから。
 時間は金曜日の昼休みに遡る。
 美奈と机をひっつけて昼食を取っていた私たち。
 そんなお昼のゆるりとした時間を引き裂くように、何回目になるだろうか、また綾小路くんがやって来た。
「やあめぐみ。ご機嫌はどうだい?」
 綾小路くんはいつもこんな風に変わった切り出し方をしてくる。これは私の固定概念かもしれないけれど、ちょっとキザな感じがして苦手。髪を掻き上げる仕草とか、たまに手鏡で自分の顔や髪型を気にしているところとか、とにかく自分のことが大好きなんだろうなあっていうのが伝わってくる。だから私がこんなに誘いを断っているのに気にも留めず何度も言ってくるのだろう。
 
「あ。綾小路くん、どうしたの?」
「またそんなとぼけたふりをして、つれないなー。めぐみ、僕とのデートのことちゃんと考えてくれてるかな?」
 さあ、今日も来たよ。
 私はすっとぼけた振りをしながらも頭の中では断りの文句をどうするかばかり考えている。
 いつもいつも用事がありますって言うだけじゃ、さすがに彼も引き下がらなくなってきそうな気がしている。
 綾小路くんは背も高くて、顔も目がスッとしたイケメンだ。おまけに物腰も柔らかくてクラスの女子にも人気がある。そんな彼に度々今度一緒にどこかに行こうといわゆるデートのお誘いを幾度となく受けている。
 他の女子からしたら羨ましい事この上ないだろうし、断る理由なんてないでしょって怒られそうだけれど。正直乗り気じゃない。
 私なんかじゃなくてもっと他の娘の方がいいんじゃない? とか思うのは贅沢だろうか。
 こんなに誘われているのだし、一度行ってしまえばいいだけの話かもしれないけれど、やっぱりそういう事は軽々しく行ってもじゃあ次は? じゃあ次は? ってなってしまっていい事はなさそうだし。行きたい理由が無いならきっと後々後悔すると思う。
 特に男の人と初めての二人きりのお出かけなのであれば尚更好意がある人とがいい。彼が嫌いってわけじゃないけれど、好きかと言われると、やっぱり違うって答えるし。
「なはははは。どーしても行かなきゃだめー? 私、こー見えてもけっこう忙しかったりするんだよなーなんて? 部活とか? 委員会の仕事とか? 勉強とか?」
 あー。私ってば何はぐらかしてんだろう。張り付けた笑顔の裏で自嘲気味になる。結局私はキッパリと断る事が怖いのだ。
 彼は同じクラスだし、これからも最低一年はこの共有スペースで過ごしていくのだし。余り悪い印象を与えると後々面倒くさそうなのだ。それに他の女子にも人気が高いし、彼の誘いを無下にしたと知れたら何を言われるか分からない。というかもう多少は気づいていて若干恨まれているかもしれない。そしたらもう手遅れじゃないか。
「気になる女の子を誘うことがそんなにいけないかな? 今はテスト前で土日は部活も委員会もないだろう? 勉強もするべきだろうけど、起きてる間ずっと根を詰めてやるとか逆に効率も悪くなるんじゃないか? 少し休憩がてら土曜日の昼間だけでも付き合ってくれないかな?」
 私の考えなんてお構い無し。
 やっぱり今日の綾小路くんはいつものように引いてはくれなかった。テスト前、普通の学生であればやることといえばテスト勉強くらいしかない、というようなタイミングで声を掛けてきたのだ。
 バイトでもしていれば別だけれど、私の予定は特に埋まっていない。断るということは必然的に行きたくないと思われても仕方がない状況だ。たぶん彼にそんな選択肢を私が選ぶという可能性を想像することなんて無いのだろうけれど。
「あ、あのっ!」
 私が返答の困って口を嗣ぐんでいると、ずっと黙って話を聞いていた美奈が急に話に割り込んできた。
 綾小路くんはすっと美奈に視線を移す。その顔に偽物のような笑顔を張り付けたまま。
「ん? 高野さん、君には関係のない話なんだから、口を挟むのは野暮ってもんじゃないかな?」
 そんな言い方をされて、美奈は一瞬びくんと肩を震わせた。普段から積極的に人と会話しようとはしない彼女。いつもならあっさりと謝って終了、という姿が容易に想像出来たけれど、この時はそれで引き下がらなかった。
「その、……ごめん。えっと……明日はめぐみちゃん、……私の家にお昼から来て、そのっ、一緒に勉強して、……お泊まりする約束があるから……。その……無理……です……。」
 美奈は段々と俯きながら、小さくなりながらも途切れ途切れそんな事を話した。勿論そんな約束はしていない。きっと美奈なりに私の心中を察して気使ってくれての行動なのだろう。その一生懸命さに私は胸が熱くなる。
「そうなのかい? めぐみ?」
 口から出任せだろうと言わんばかりの表情で私に確認を取ってくる。その綾小路くんの態度を目の当たりにして、私は今までの自分を恥じた。
「あのさ、綾小路くん。申し訳ないんだけど、何度言われても綾小路くんの誘いは受けられない。ううん。受けない。最初からはっきり言えばよかったよね。それもごめん。とにかくさ。もうこうやって誘うのはやめて。迷惑なの。」
言っちゃった。言ってしまった。言いすぎ?ううん。でも後悔はしてない。スッキリした。私は綾小路くんの目をしっかりと見据えた。
 すると彼は何を言われたのか分からなかったようで、一瞬呆けたような表情をした後、唇をわなわなと震わせた。
「……そ、そうか。そうなのか……。うん、うん、そうだったんだね……。わかったよ。じゃあな!」
 それだけ告げてそそくさと行ってしまう綾小路くん。
 もしかしたら激怒するかとも思って、内心ビクビクしたけれど、どちらかというとはっきり言われてようやく気づいたって感じだったように思える。何なら今のやり取りを遠巻きに見ていたであろう女子たちの方が気に掛かったくらいだ。
 何にせよ一件落着だろうか。
「あ、あの……めぐみちゃん」
「美奈っ! ありがと!」
「きゃわっ!?」
 申し訳なさそうに私の顔を覗き込む美奈を見ていると、考えるよりも先に手が出て思わず彼女に抱きついてしまった。
 てゆーかホントに感動した。
「めっ、めぐみちゃん……痛いよ……」
 きつく、ぎゅっと抱きしめる。抱きしめながら、ふと思った。
「美奈……」
「ん?」
「けっこう胸あるんだね。着痩せするタイプか。」
「うん。……え!? 何言って……っ!?」
 途端に顔を真っ赤にして慌てふためく美奈は、本当に可愛いくて、愛おしくて。
 私のために話すのが苦手なのに勇気を出してくれて。背中を押してくれて。こんな事ってある? こんな私のために。
 もうこれは私の親友確定だ。
 本当に、この娘の事が大好きになってしまった。
「あ……でも、……余計なこと言ってごめんね。……迷惑、だったよね?」
「何言ってんの! ばか! すっごい感動したよ! 私こそ余計な気を使わせてごめん! 心配してくれて、すっごい嬉しかったよ!」
 そう言うと、美奈は一度、ハッとした表情を見せた後、嬉しそうに、
「そうなんだ。嬉しかったんだ。やっぱり言う通りだった……」
 って呟いた。その言葉の意図はよく分からなかったけれど、今の美奈の表情は何だか今まで見てきたどんな表情よりも可愛くて、そして綺麗だった。
 しばらく彼女の顔を見つめていると程なくして私の視線に気づいた彼女はもういつもの恥ずかしがり屋な女の子に戻っていた。
「な、なんでもない……です」
 何で敬語? って思ったけれどそれは置いておく事にした。ただ同時に思う事があって私は思いきって美奈にその話を切り出してみる事にした。
「美奈、あのさ」
「ん?」
「さっきの話、なんだけどさ」
「?」
 私の言葉に今一得心がいっていないようで顔にはてなが浮かんでいる。私もちょっぴり恥ずかしかったりはするのだけれど。
「明日、お泊まりに行ってもいいの?」
「あ! ……」
 そこでようやく彼女は私の意図する所を理解したみたいで。
「いいよ!」
 と一言。今日一番の笑顔で言ってくれた。
 こうして私たちは、週末美奈の家でお泊まり勉強会をする事になったってわけなのだ!
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