私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 土曜日の魚住駅ロータリー。時間は一時十五分前。
 休日のお昼時だというのに駅前はそこまで賑わいを見せてはいなかった。
 私が住む隣駅の大久保駅に比べれば、こちらはどちらかというと住宅街が多い地域。まあ大久保駅もそうっちゃそうなんだけど、あそこの駅はそのまま駅から直通で行けるショッピングモールが建ち並んでいる。周りに数件の食事処とスーパーくらいしかないこちらに比べれば幾らか栄えているような気がする。


 美奈の家はこの魚住駅から歩いて五分くらいのところにある一軒家らしく、駅で待ち合わせてそこから一緒に家まで行こうという話になっていた。
 駅の壁にもたれ掛かってぼーっと空を見上げていると、程なくして美奈がやって来た。


「めぐみちゃん!」


「美奈!」


 私を見つけるなりとことこと駆けよってくる姿は、何だか学校にいる彼女とは別人のように朗らかに見えた。
 そんな事言うと彼女が暗いみたいに聞こえるかもしれないけれど、学校にいる時の彼女はどこか引っ込み思案な感じで、伏し目がちで、控えめに言っても大人しすぎる女の子だ。
 いつもこんな感じで振る舞えば、けっこう可愛らしいしクラスでも人気が出るんじゃないかと思う。 
 それと同時に私にはこんなに朗らかに接してくれるようになったんだと内心一種の感動にも似た熱い感情を胸の中で味わっていた。こりゃ彼氏だったら堪らないわ。


「ごめん。待ったかな?」


「ううん。さっき着いたとこだから。それよりも」


 私は恭しく美奈に一礼をしてウインクを一つ。


「今日はよろしくお願いします」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 話に聞いていた通り、美奈の家は駅から五分程度でたどり着いた。その間線路沿いの道を少し行って踏切を渡り、そこからまた線路沿いを少し歩いて途中道を左に折れ、線路を背にして数分歩けばもう到着と何ともシンプルで覚えやすい道のりだった。
 家に着くと早速お母さんが玄関から出迎えてくれた。


「いらっしゃい」


「こんにちは!初めまして!同じクラスの椎名めぐみと言います!今日はお世話になります。」


 ペコリとお辞儀をしつつ私はお母さんの笑顔についつい見入ってしまう。
 美奈のお母さん、美奈ママは柔和な笑顔がとても優しそう。
 美人というか、可愛らしい感じだ。黄色いエプロン姿がその可愛らしさを引き立てている。なんだかすごく若く見える。20代でも通用しそう。でも美奈の年を考えると30代後半か下手をすれば40代だよね?


「まあ。すごく可愛らしいお嬢さんね! モテるでしょ?」


 私を見るなりいきなり近づいてきてガバッと手を掴んでくる。顔には満面の笑み。いや、近い近い。


「いやー、そんなことないですよ! 私けっこうがさつなとこあったりするし。」


「お母さん! 変なこと言わないでよ!」


 二人会話を弾ませていると突然美奈が割り込んできた。学校では見ることはない程の素早さで、私は思わず目を丸くしてしまう。


「いいじゃない。せっかくあなたがお友達を連れて来てくれたんだから。お母さんも仲間に入れてよー」


「だーめ。今日はお勉強会なんだから、もう部屋に行きます!めぐみちゃん、行こう?」


 そう言ってすたすたと靴を脱いで二階に行こうとする。いつになく積極的な美奈だ。私は若干びっくりしつつも先へ行ってしまう美奈を追いかけることにした。


「あ、じゃあお母さん! 失礼します」


「うん。また後でおやつでも持っていくわね!」


 ペコリとお辞儀する私に笑顔で手を振る美奈ママ。
 何だか高野家のペースに自分自身を乱されっぱなしだ!


「もう! お母さんたら!」


 部屋に入ると美奈はぷんすかしながらベッドに腰かける。そんな美奈を見て私は何だか嬉しくて堪らなくて、笑いが堪えきれなくなって声が漏れてしまう。


「ふふふ……」


「あっ!? え!?」


 そんな私に気づいて途端に顔を赤らめる美奈。
 今さらいつもと違う自分をさらけ出していることに気づく辺り、本当にリラックスしていたんだと思うと、嬉しくて可笑しくて、笑えてきてもうダメだった。


「あははっ!! 美奈ったら! 何なのよ!もう!ふふ……あはは……あははははっ!!!」


「あ……う……」


 そんな私を見て口をしきりにパクパクさせている美奈。
 本当に、すごーく来て良かった!

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