【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

エピローグ

 海の上の海保隊員の携帯に時折、『いたずらメール』と題した写メだけのメッセージが送られてくる。

『ブルーハワイを飲む私』
 真っ青になった舌を見せびらかした、セルフ写真。

『水を張った洗面器に顔をつけるの成功』
 コメントしてある、びしょ濡れの写真。

 蒼人は思わずガッツポーズをした。

「あおの彼女じゃんか。もうあと十センチ、下まで写せってメールしとけ」

 びしょびしょでタンクトップの胸元が透けている。

 ほかの乗組員からチャチャが入って、蒼人は灯里の写メを隠した。

「見ないでください、彼女が減る!」
「けーち」

 同僚から離れたところに歩いて行った蒼人は、携帯の『Akari』フォルダを開ける。

『だるまさんが転んだイタズラメール』
 題された写メだけのシリーズ。

 海ぎわ三十メートルから始まり、彼女がジリジリと海に近づいていく写真が収められている。

 時には五メートルまで肉薄しながら次は十メートルくらい後退してしまう。

 蒼人としてはアクション映画より息を飲んで続きの写メが送られてくるのを待っている。

 が、不満が一つある。
 明らかにセルフではない点だ。

『誰に撮ってもらったの』と嫉妬丸出しでメールすれば。

 三脚をセットしてダッシュする彼女と、三脚が倒れて彼女が横になりながら走っている写メが送られてきた。

 最新の写真は、こわごわと海に足をつけている写真だった。


 蒼人が画面を愛おしそうに撫でていると、とうの灯里から電話が入った。
 せっかく電波が通じるところを船が通過していたのに、無情にも彼女はワンギリした。

 蒼人が船に乗ってしまうと、彼女は時々恋人の携帯にイタズラ電話を仕掛けてくる。

「今度のお仕置きはなにをするかなー……」

 蒼人は楽しげにつぶやく。

 まずはウェットスーツの代わりに白のウェディングドレスを着てもらうのはどうだろう。

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