【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

私は貴方の灯台だから8

 今日もコールセンターの仕事は山積みだ。
 間違い電話をしないように気をつけよう。

 シャワーを浴びて、カレンダーで自分のシフトを確認する。

「次のお休みには、お祖母様にメイクしてあげよう。ネイルもいいよねー」

 見舞に訪れるであろう、あの憎ったらしい櫂斗とも陰険漫才をしてやらねば。

 蒼人の祖母を見つけるために回った別のケアハウスからも、『次はいつきてくれるのか』との問い合わせもある。  
 部屋の中でめそめそ泣いている暇はない。 

「ハリセンボンを採りにいくためにも」

 海に行けるようにならないと。
 まだ怖いけれど、洗面器に顔をつけてみてもいいかもしれない。
 クリア出来たら浴槽に潜ってみよう。

 ふふ、と灯里は笑った。

「寂しくなったら蒼人に電話をかけちゃおう」

 そして『間違いました』と言って切るのだ。
 もちろん海上保安庁の電話番号にではない、彼個人の携帯電話にだ。

『俺は出られないけど、灯里からはいつでもかけてきてほしい』

 蒼人から灯里だけに許されている、恋人の特権だ。
 彼は灯里の許に帰って来たときに、きっとこう言う。

『イタズラ電話にはお仕置きをしないとな』と。

 真っ黒に日焼けして、灯里の大好きな笑顔を浮かべながら。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品