【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼い悪夢13

 亡霊をみたように灯里がうめいた。
 カタカタと体はいつまでも震え続ける。

「灯里。もう、あんな事故は起こらない。俺がいつも灯里のそばにいる。だから、大丈夫だ」

 優しく宥められても、恐怖は去っていかない。
 それどころか。

「蒼人は、あの地獄に戻るんでしょう?」

 灯里は恋人にしがみついた。
 彼女の、死の淵を覗き込んでしまった真っ黒な瞳は蒼人を見てはいなかった。

「あんな、死と隣り合わせのところに!」

 蒼人は灯里を必死に宥める。

「大丈夫だ。危険かもしれないが、俺は絶対に無事で帰ってくるから」

「いやぁっ」

 灯里は蒼人にしがみついたまま、いつまでも震えていた。


 デートの帰り。
 どちらも黙りこくって喋らない。

 灯里は惨めな気持ちだった。
 せっかく蒼人が作ってくれた大事な時間を壊してしまった。

 けれど、どうしようもなく怖いのだ。
 海も。
 海に魅入られたような蒼人も。

「じゃあ、俺。今日宿直だから行かなくちゃならないけど……一人で大丈夫か」

 灯里はこくんと頷くと、ふらふらとアパートに戻った。

 自分の後ろ姿を、蒼人がいつまでも見つめていたことに彼女はとうとう気づかなかった。

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