【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人26

 はあ、はあ、は、あ……っ。

 全力疾走したように苦しい。
 二人はベッドに体を投げ出した。  
 互いの心臓の音を聞いているうちに、狂ったような心拍数はだんだん穏やかになっていく。

 トロトロ……と灯里が寝入りかけると蒼人が身を起こす音がした。
 シャワーを浴びるのかと思い、微睡んでいると。

「今日宿直なんだ、帰る」

 玄関から声がしたので、がばりと起き上がれば大好きな男が靴を履いているところだった。

 見れ足袋は揃えてあり、襦袢もきちんと衣紋掛けにかけてくれている。
 恥ずかしい。

 何で、この男は着物の取り扱いまでできるんだろう。
 瞬間、着物美人とデートしている蒼人を想像してしまい、ヤキモチが瞬間沸騰する。

 蒼人は屈んでいた背中を伸ばしながら言った。

「言っておくけど、俺はおぼっちゃまなの。高校出るまでなにかと着物着てたんだよ」

 そ、そうですか。
 考えてたことがまるわかりだ。

 蒼人がニヤリと笑う。

「けど悪いな。着物の手入れと脱がすことはできるけど、着せることまでは覚えてない」

「そ、そうですよね」

 なんか、二十代で女の着物を着付けできるってどれだけ色っぽい。

 瞬間、はんなり美人としっぽりデートしている蒼人がまた脳内シアターに上映された。

「灯里が着てくれるなら、着付け方習うけど」

 もちろん脱がせるためだけど。
 つけ加えられて真っ赤になる。

 色気を思いっきりぶつけられて口がきけなくなったところで、切なそうな笑顔を浮かべられた。

「灯里はそのままでいいよ、そのまま寝てな。俺が最後の体力根こそぎ奪ったからくたくただろ」

 なんてこと言うのか。全くその通りだ!

 アワアワしているうちに蒼人の姿が半分ドアの向こう側に隠れる。

「鍵はかけてく。またくる」

 灯里はぼんやりしながら手を振った。
 なおも玄関を見ているとドアの鍵が閉まり、ポストからかしゃりと鍵が投げ入れられた。  
 音を聞いて、彼女はぽすりとベッドに身を倒した。

「勝手なやつ」

 掛布を裸の体の上に引き上げ、枕に頭をのせて悪態をつく彼女の顔は微笑んでいた。
 




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