【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人〜蒼人視点4〜

 『目は心の窓』とはよく言ったものだと思う。

 灯里の瞳は万華鏡のように表情を変える。
 怒って、拗ねて、僻んで笑って。
 とんでもなくズボラで、なのに時々シャッターを下される。
 そんな時、灯里の双眸は艶消した真っ黒なガラスのようになる。

 彼女は遭難したと言っていたから、元々は海にいくのが好きだったのだろうと思う。
 灯里は海を拒絶しているようだった。
 それでも、蒼人と同じ海の生き物にしか思えなかった。  

 彼女を温めてあげたかった。
 抱きしめれば、柔らかく息づく。

 笑って拗ねて笑って。
 彼女の笑顔が、自分の腕の中ではにかむ彼女が宝物だった。

 海で働く男には、灯里みたいな女性が待ってくれているのだと考えついたら、たまらなくなった。 

 助けてあげたい。
 彼らを待つ『灯里』の許に無事に返してあげたい。 
 自分が灯里の唯一無二の男になったつもりでいた。
 灯里も自分を唯一だと定めてくれているのではないかと思えた。

「なのに、灯里にとって俺はそうでなかったんだ……ッ」

 気軽に乗り換えられる船の一隻に過ぎなかったのだ。

「馬鹿だろう、俺は!」

 闇雲に歩き回って、気がつくと灯里のアパートの前に立っていた。

 灯里にあって問いただしたい。

 自分の勘違いだと。
 灯里は自分を好きなのだと笑って言って欲しかった。

 蒼人は、矢も盾もたまらず灯里の家のドアを叩いた。

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