【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人3

 志のまま海上保安庁へ入庁し、厳しい訓練に耐えてたくさんの救助活動をしてきた。

 その中には命が危ぶまれるような危険な状況もあったはずだ。

 年月を経た彼の思いは萎えるどころか『世界中の親父や兄貴を家族のもとに無事に送り届けたい』へと育っていった。

 蒼人はひたすらに海の安全を願い、自分ができることを実践している。

 そんな人間から救助という手立てを奪うことは、自分や櫂斗にとって満足のいく結果になったとしても、果たして彼自身にとっては幸せなのだろうか。

 だが。
 蒼人のやりがいは事故や事件と対峙するところにある。

「誰かの幸せのために、蒼人が犠牲になるの?」

 耐えられない。

 被救難者に謝罪にでもこられたら罵倒した挙げ句、バケツの水でも浴びせてしまいそうだ。

 けれど、蒼人の仲間は死にかけていた灯里を必死に捜して救け出してくれた。

 その恩恵を受けた自分が、身勝手な願いを彼に告げてしまっていいのだろうか。



 ――いつしか灯里は襦袢を身につけたまま、ペタリと床に座り込んでいた。

 蒼人の兄の思惑など、どうでもいい。

 櫂斗に賛成されようが反対されまいが自分達は大人だ、誰の指図も受けない……が。

 憎たらしい人物ではあるが、海の怖さを知る櫂斗が弟を心配している。
 蒼人の仕事はそれだけ危険だということだ。

 自分の不安は杞憂ではないということが、より心をざわつかせる。

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