【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人

「なんなのよ、あの男は!」

 見合いの場から灯里はプリプリしてホテルを出た。

 せっかく綺麗に髪を結い、人目を惹く振袖姿だというのに、荒々しい足取りは装いに全く似あわない。

 タクシーを止めて乗り込んで、自宅の場所を告げた。

 綺麗に塗ったネイルが剥げるのも構わず、灯里はバッグの中をかき回して自宅の鍵を取り上げた。

 ドアを開け、乱暴に閉めた。

 どすどすどすと歩きながら帯留めを解き、帯揚げを解けば、シュルシュルと帯が足下にわだかまる。

「櫂斗って男、ほんっとに最っ低!」

 兄弟なのに全く似ていない。
 ……似ていなくもなくもないが、灯里の大好きな男とは大違いだ。

 たとえて言うならば、蒼人は晴れやかな太陽の下、爽やかな風で楽しげな波が踊っている海。
 櫂斗は大型低気圧の下の海だ。

 伊達帯を緩め、体の凹凸を補正していたタオル類、補助ベルトを外して着物の袖から腕を抜くと衣紋掛けに振袖を吊るし、風を通す。

 ――これは借り物だ。ケアハウスの住人達は灯里に心よく大事な物を貸してくれた。

 着物を乱暴に扱わないように深呼吸を繰り返す。

「それにしても」

 腹の中が煮えくりおさまらない。

「【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く