【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

御曹司との見合い8

「御曹司さんと彼氏さんを比べて、どちらが好ましいかを見極めるのは灯里さんにとって良いことだと思うの」

「そう……なんでしょうか」

 迷っているならともかく、定まっている時に他の男性を見る必要などないと思うのだが。

「セカンド・オピニオンのようなものよ。それは灯里さんにだけではなく、彼氏さんにとっても重要なの」

 え、と思った。
 貴女にも御曹司さんにも、彼氏さんにもパートナーを選ぶ権利はある。

 急に不安になった。
 蒼人のほうが見合いだったら、自分は選んでもらええるのだろうか。

「灯里さんがお金しか取り柄がないような男に転ぶ女性だったら、恋人さんにとっては危険回避したことになるし。逆に、そんな男に灯里さんをとられるような彼氏さんはまだまだお尻があおいのよ」

 ひゃ、と灯里は首をすくめた。

 歳上の友人は手厳しい。
 自分はともかく、蒼人が陽子の発言を聞いたら砂になってしまうのではないだろうか。

 けれど、年輪を重ねるごとに知恵と内面からの美しさを備えてきたこの女性は、若者たちに失敗をしないようにと教えてくれているのかもしれない。

「一番の目的はね。私が灯里さんに着てほしいお振袖を持っていることなの!」

 モナリザのように奥深い微笑みをたたえた歳上の佳人は、目をキラキラさせ始めた。

「とっておいてよかった! 振袖も喜ぶわ、戦後私が主人と見合いした時のものなのだけど、素敵なのよ」

「あ、あの。陽子さん?」

「そうだ! 灯里さん、ここで着ていただけない? 自分達のおしゃれも嬉しいけれど、若いお嬢さんが着飾ってくれるの、そりゃあ目の保養になるの」

 エンジンのかかった歳上の友人をどうやって止めよう。 

 灯里がオロオロしている間に、陽子はケアハウス仲間(日舞の元お師匠)や介護士などにもどんどん声をかけていってしまう。

 同じ建物で起居すると気質が似てくるのか、歳上の友人達のやっちゃえ的なノリがすごい。

「それが良いわ、早速手配するわね!」
「あの、でも」

「場所はどちらなの? あら、オールドホテルならこのハウスから目と鼻の先じゃない。ねえ院長。灯里さん、お見合いなんですって。お振袖を着せてあげたいのだけど、前の日に泊まってもらっても構わないでしょう?」

 陽子はケアハウスの院長に直談判を始めてしまった。

「よ、陽子さん」

「こんなイベント、久しぶりだわー!」

 もはや、だれも灯里の意見を聞くものはいない。
 結局着替えを持って前泊させられることになった。

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