【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

御曹司との見合い4

「知ってるわよ」
 
 上司がシシトウにあたったような顔をした。

 忘れるわけがない。この上司の前でお持ち帰りされたばかりだし、さっきもからかわれた。

「おかげ様でラブラブだよ?」

 相手も自分も不定期勤務でなかなか会えないが、正真正銘ラブラブである。

 今朝だって愛し合ってきたばかりだ。
 幸せなのでよそ見をするつもりはない。

 奢ったことを言うつもりはないが、御曹司は正真正銘の独身女子にお譲りする。

「知ってるけどぉ……。美咲ちゃん『愛さえあれば金も名誉も要らない』タイプだったっけ?」

「いや、お金は必要でしょう」

 灯里はキッパリ言い切る。けれど、付き合い始めくらい、まずは愛を優先したい。

「でも今は食べていけてるし、困ってないから。断って」

 しかし、上司はブンブンと首を横に振った。

「天上の方からの依頼なのっ、僕の一存で断れない」
「えええー」

 灯里は思いっきり変顔をして、いやそうな声を出した。

 鶴亀コールセンターのヒエラルキーは下からジュニアスタッフ、シニアスタッフ、アシスタントリーダーにリーダー。

 そして、清水はスーパーヴァイザーの一人である。

 彼の上にはマネージャーやセンター長がいる。
上司の言い草では、それよりもっと上からの指示のようだった。

 本当に困っていそうなので、足元を見てふっかけてみた。

「日当や交通費」
「出ません」
「じゃ、パス」

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