【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

俺のことを考えて15

 折り曲げた指で灯里の顔の輪郭をなぞっていく。

「私だって、蒼人が大事だもの」
「そういうところだよ」

 なにも求めず、そばにいてくれたことがとても嬉しいと蒼人は言った。

「蒼人は勘違いしてるよ。私、貪欲だもの」
「どんなとこ?」

 蒼人の顔が灯里の近くに降りてくる。

「私、蒼人が欲しいもん」
「灯里……」

 そ、と唇に触れるだけの優しいキスだった。
 けれど、はあ……と吐き出した男の息は熱く、目の中に欲情の炎がちらついていた。

「エレベーターの中で煽るなよ」

 最初に好きだと言ってくれたのは蒼人なのに、随分理不尽だ。
 灯里が口を尖らせてみせると、パチン!と両頬を押された。

「ほんと可愛い」

 額にちゅ、とキスが落とされた時、エレベーターが二人が降りるフロアで止まった。

「私の方が二つ年上なんだけどな……」

 灯里は大きな背中を見ながらつぶやいた。

 室内に入ると、横浜の夜景が窓いっぱいに広がっている。

「綺麗……」

 灯里は思わず窓辺に近寄った。

 実はコールセンターに就職を決めてから横浜に住むようになった人間なので、まだまだこの町を知らない。

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