【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々37

 不要なものがとことんない部屋には、不思議な感覚がある。

 ――引っ越す際に空っぽになった部屋の中を見渡して『元々はこんなに広い部屋だったんだな』と再認識するような。

 ごちゃごちゃとしてくると忘れがちになってしまうのだが。

「驚いた?」
「なんか好き」

 逆に蒼人は灯里の感想に驚いたようだった。

「高校の時のダチを泊めたらびっくりされたけど」

 だろうな。
 けれど。

「これはこれでありかな、と思う」
「そう?」

 蒼人は嬉しそうだった。

 台所や風呂、洗面所もみせてもらった。

 いずれも保安大学校時代に仕込まれたようで、掃除が行き届いており清潔である。
 が。
 トイレにトイレブラシと洗剤。
 風呂にはシャンプー、ボディソープ、風呂の洗剤、ロープをうまくマット状に編んだもの。
 
 台所にはチリひとつ、皿一つなかった。
 レンジはあっても使われた形跡はなく、冷蔵庫は飲み物と湿布のみ。

 灯里はにっこりと笑った。

「蒼人がご飯食べたい時は私の家だね」
「ああ」

 面目なさそうだったが、蒼人も笑う。
 灯里の脳内に映像が浮かんだ。

 将来、もしかしたら一緒に住む時、灯里の部屋のものを台所に移せばいいのだ。

 この部屋で楽しく暮らす自分と蒼人の姿を想像して灯里は楽しくなった。

「気に入ってくれてサンキュ」

 蒼人は灯里を抱きしめてキスをした。

「今度、灯里がくるまでにカーテンを買っておくよ」
「別にいいよ?」

 多分、彼とこの家にくる時は夜で夢中になってて、周囲なんて気にしていられない。

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