【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々35

「危ないじゃないっ」

 灯里は血相変えて叫んでしまった。

「別に? 安全ベルトはつけてるし、ロープ登攀なんて普段からしてるし。高さも十メートル程度だし、問題ないよ」

 なにを心配しているのだと言わんばかりである。 
 目の前の男の脳が、思ったより筋肉でできていることを初めて知った。

「灯里、もしかして四階まで階段きつい? おぶって行こうか?」

 心配げな男に、逆に聞かれてしまった。

「なに言ってるの、病み上がりでしょ!」
「大丈夫だよ、灯里の一人くらい。タンク三本分と思えば」

 ぐぬぬぬ。

 タンクの重量は鉄で約十三キロ、アルミで約十四キロ。呼吸用ガスを入れればフル重量、大体十七キロ。の三本分。

 なんて正確に人の体重を当ててくるのだ。

「だって、最初にあった日に灯里を抱っこしたんだよ。あの時大体目星はついた」

 そういえば車椅子の時、蒼人のひざに乗せられたような。

「大丈夫。蒼人におぶわせたりしない。私はやりきってみせる!」

 結論。
 灯里はなんとか休まずに登りきった。 

「さ、酸素……」

 医療用の酸素ボンベがほしい。
 明日、絶対に筋肉痛になる。

 陸においても四階建てを垂直に上がるときは、海底から浮上したときの減圧に慣らすときみたいに、数分間休むルールにすべきだ。

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