【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々34

「蒼人がおしゃれだから、団地住まいだなんて想像できない」

「そう?」

 が。
 あれだけ予告されていたにもかかわらず、灯里はびっくりした。

 本当に、普通の公営団地のようである。
 奥さんらしき人が小さな子を遊ばせているあたりもそっくりだ。

「な? 全然普通だろ」

 なんなとなく灯里はシティーマンションのおしゃれな部屋の中で、蒼人がモデルばりにポージングしている姿を想像していた。
 彼女は脳内イメージがガラガラとくずれた。

 だからといって、彼に落胆したりはしない。
 むしろ。

「闘志が湧いてきたっ」

 灯里はふんす、と鼻息を荒くした。

「ここ」

 蒼人が指し示した場所は団地の一棟で、四階建ての四階。
 古い建物で、エレベーターがない。
 どういうことだ。

「……車椅子の時、どうしてたの」

 見上げながら灯里は恐る恐るきいた。
 もしかして、這って階段を登ったのだろうか。
 海上保安庁が蒼人にそんな極悪非道なことをさせるなら、投書してやるとまで思い詰めた。

 灯里の怒りには気づいてない蒼人がサラリという。

「索を伝った」
「は?」

 ベランダにロープ(策と呼ぶらしい)を垂らしておいて、腕の力だけで上るのだという。

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