【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々21

 灯里は涙声だった。
 体力の限界まで努力してしまうだろう男が切ない。

 勿論、頑健な体がデフォルトだろうから、取り戻したい気持ちもあるだろう。
 でも、それだけではない気がする。
 蒼人は船乗りに戻って、人を助けたいから頑張るのだろう。

 骨盤骨折をした蒼人が危険な職務を全うできるのか、灯里にはわからない。
 けれど、蒼人が職務に戻れるようリハビリに励むのとは、別の話だ。

「……まあ」

 蒼人は怒られるのかと、目を空に泳がせた。
 しない、とは約束できないのだろう。

 灯里は彼の掌にそっとキスをする。

 自分は蒼人のストッパーになれるだろうか。
 進もうとする彼を止められない。

 だが、行き過ぎは制止したい。
 ……そう、スキューバのバディみたいに。
 残圧、レギュレーション。
 それ以上を思い浮かべようとすると、脳内の映像が真っ黒く塗りつぶされた。

 灯里は深呼吸すると、小さくつぶやいた。

「蒼人が無茶するのは、私には止められない」

 彼の手を包み祈るような彼女の姿に、蒼人の顔が歪んだ。

「……ああ」

 蒼人はそっと目を瞑ったままの灯里の唇に口づけを贈った。

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