【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々19

 二人は互いの携帯のアラームをセットして灯里のベッドに潜り込んだ。

 何も着ていないが、相手の体温で心も体も温まっている。

「灯里」
「ん?」

「俺の下半身、筋肉落ちてたろう」

 静かな問いながら『そんなことないよ』などの言い逃れを許さない雰囲気だった。
 灯里はん、と小さな声で答える。

「やっぱ、入院してそのあと車椅子だったから体力大幅にダウンしててさ」

「ん」

 なにを言われるのだろう。
 彼の胸に顔をふせながら灯里はドキドキしていた。

「上半身は筋トレしてたんだけどさ。下半身は歩くことからやり直し」

 車椅子ってかなり不自由と思っていたが、実際に杖だけだと起き上がるのも大変でトイレが大仕事、と蒼人はつぶやく。

「今日は慎重に一歩一歩、八〇〇メートル歩くのに二時間かかった」

 灯里はガバリ、と体を起こした。

「まさか、ここまで駅から歩いてきたの?」

「いや。 さすがにクタクタで、なによりも早く灯里に会いたかったから」

 タクシーを使ったよ、と蒼人は手を伸ばして灯里の頬を撫でた。

 ふと、彼の掌を見るとマメが潰れていた。

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