【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々3

 灯里は慌てて、通話をオンにした。

「蒼人っ?」

『ごめん、忙しかった? 今、時間が取れたから』

 休憩中らしく、やいのやいのと賑やかな音が聞こえてくる。

「ううん、嬉しい」

 つい本音を言ってしまった。
 爽やかな彼の声を聞いていると、恋の駆け引きなどどこかに行ってしまう。

『もしかして、灯里は休み? 何してんの』

 灯里は家で家事をしていると伝えた。

『偉いなー。俺、家って言うか公務員社宅でさ、帰るとバタンキュー』

 そうだろうなと思う。

 救難に出ていなければ、体を酷使した訓練に明け暮れる。
 あるいは海を守るため、船に乗っているか。

「そう言えば、蒼人はコールセンターに、違った運用指令センターってところに勤めてるんだよね。長いの?」

『骨折したあとからだよ。というよりは、治るまではね』

 灯里は彼の言葉が気になった。
 異動する予定があるのだろうか。
 ふと、彼が腕に嵌めていたのはダイバーズウオッチだったと思い出す。

 そういえば彼は『休暇のために陸に揚がって事故に遭った』と言っていた。 

 ということは、完治したら海上勤務に戻るのだろうか。

 ――イヤダ。ドコニモイカナイデ。

 とっさに思った。

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