【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

連れ出したくて、付き合いたかった

「あ、あの! すみませんでしたっ」

 灯里が海野の後をついていくが、彼は何も喋らない。

 平日であってもさすがは中華街。人の波は決して少なくないが、彼は歩いている人を避けさせないよう器用に車椅子を操作している。

 かえって、灯里が海野の後を追おうとするあまり、向かってくる人の肩にぶつかってしまったりする。

 身長が高い男性なら本当は追いかけるのは簡単だ。しかし今の彼は子供の身長くらいしか高さがない。

 ちょっと人の流れにまごまごしてしまえば、あっというまに見失ってしまう。

 ――ここで別れたくない。置いていかないで。

 泣きそうな気持ちになりながら、灯里は必死にあとを追う。

 追いついたら、その先は?

『おしおき』とは何をされるのだろう。
 人目のつかないところで罵倒されるのだろうか。
 あるいは合コンに参加しないように帰らされるのか。
 もしくは『海保と二度と関わるな』とでも言われてしまうのだろうか。

 ようやく追いついて、彼の車椅子のハンドルに手が届いた。
 逃がさない、とばかりにしっかりと掴む。

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