【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日11

 灯里は手拭きを受け取った。
 しかし、あまりに慌てていたので皿などを移動する時にガチャンガチャンぶつけてしまう。

 彼女が気の毒になったのか、清水の友人から慰めの言葉が入った。

「気にしないでください。実際のところ、間違い電話はよくあるんです」
 彼らが所属している
三菅本部には一日に五〇〇〜六〇〇件の通報があり、全国の件数の四割を占めると言う。

「すごい!」

 女性陣が感嘆する。
 それだけ、男性陣が勤務している第三菅区――大雑把に関東と東京都の島嶼部、東海の太平洋などが含まれる――は、船の出入りが集中するところであり、事件・事故が多発する地域ということだ。

 ワンギリだったとしても、事件や事故の可能性があるため通報者の電話番号や位置情報を確認し、担当者がおり返し電話をかけるのだという。

 女性達が真顔になった。

 緊急連絡を受ける場所への間違い電話は、命の損失に繋がりかねない重大な過失であると改めて認識したのだ。

 場が静かになってしまったことに気づいた男性陣が、慌ててフォローしてくる。

「そうそう、気にしないで。我々も間違いとわかればホッとしますから」

「緊急を要する出動が一つ減って大助かりです」

 叱責されるとばかり思い込んでいたところので、かえって灯里は身の置き所がなくなってしまった。


「イタズラ電話は業務妨害」

 車椅子の男性がまたしてもつぶやいた。

 参加者メンバー達は、今度は彼に注目した。
 やっぱり怒っているんだと、灯里は暗澹たる気持ちになった。

 ――せっかく、もう一度会えたのに。イタズラ電話じゃなかったのに。

「まーま、海野。彼女も悪気があったわけじゃないからさー」

 海保側が海野と呼ばれた男性をなだめにかかる。
 海野は同僚の言葉を気にした様子もなく、さらに言う。

「イタズラ電話にはお仕置きをしないとな」

 彼は灯里達と反対側に体を屈ませると床から車椅子を取り出した。

 瞬く間に組み立て終わると、椅子のうえから器用に両腕だけで車椅子に着座する。
 海野を気になってチラチラと見ていた女性がは、っと息をのむ。

 彼は灯里にドアをくい、と顎でしめした。
 催眠術にかかったように、ふらふらと灯里が立ち上がってへやの外に姿を消すと。

「開始早々、お持ち帰りかよー!」

「やってらんねー! ささ、女性の皆さんもコップをどんどん空けちゃいましょーっ」

 背中から男性が囃し立て、女性が改めてグラスを掲げた気配がした。

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