【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日10

「こいつら、とにかくよく食いますから。遠慮してると食いっぱぐれますよ」

 その声で女性も取り皿と箸を使い出す。
 そこここに会話の華が咲き出したのに、一人灯里だけがガッチガチに固まっている。

 車椅子の男性に女性陣が距離を超えて色々話しかけるのだが、彼は時折うなずくのみ。

 とうとう、女性陣はほかの男性との会話に夢中になった。

 車椅子の男性は静かに飲み食いしており、灯里の周りだけ会話の花が咲かない。

 ……灯里は車椅子の男性の箸を使う所作や、コップにつけた唇、嚥下するたびに動く喉仏などをちらちら盗み見してしまう。

 という彼女の様子を見てとったのかどうか、清水がいきなり爆弾を投下してきた。

「この子ったら皆さんに会えるのをワクワクしていたせいか、今日そちらのコールセンターにかけちゃったんですよう〜。ねっ、美咲ちゃん!」

 清水がニコニコ微笑みながら灯里の方を向く。

「むーちゃんっ?」

 なんてことを言うのだ。

 命を助けるための海の守り人達の聖域を乱してしまい、絶対気を悪くしたに違いない。

 座の視線が一気に灯里へ集まる。

「清水、運用指令センターって言うんだ。美咲さんでしたっけ、『海の事故は海上保安庁へ!』です。貴女は正しいです」

 幹事がうまく合いの手を入れてきた。

「で、どんなご用だったんですか? 事故? それとも事件?」

 間違い電話と知りつつ、わざと聞いてくる。

「えー? 美咲ちゃん、やっちゃったねー」

 女性が囃し立て、他の男性も乗ってきた。

「今日ですか、何時ごろ?」

 灯里が口をパクパクして返事をできずにいると、清水が時刻を告げた。
 ボソリと車椅子の男性がつぶやいた。

「俺が取った電話だ」
「ご、ごめんなさいっ」

 よりによって!
 一番知られたくない人に自分の失態を明らかになってしまった。

 灯里はテーブルの上に慌てて頭を下げた。
 その拍子にコップが倒れ飲み物が溢れて小さなパニックが生まれた。

 周りが、手をふき終わったおしぼりをそれぞれ手渡してくれる。
 清水がスタッフに代わりのおしぼりを持ってきてくれるよう頼んでくれた。

「か、重ね重ね、すみませんっ……」

 今日は大殺界かなにかか。
 灯里は頭を下げながら考えた。

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