【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日4

『化粧も! せっかく神から与えられたもうた技術をちゃんと駆使しなさいっ』

「へえへえ、メイクも頑張ればいいんでしょ」

 脳内の上司に返事をしながら、スキンケアの瓶を取った。
 化粧水をはたくと、いやでも感じることがある。

「……お肌つやつや……」

 手にすいつくような肌触りに加えて、内面からの輝きや肌の透明度が一週間前とは大違いだ。

「はぁぁ」

 あの男性と濃くて甘い時間を過ごしたからだ。
 可愛がってもらった体は潤っている。

「あぁぁ、やっぱり合コンに行きたくない……」

 あの男性を探しに、ケアハウスを訪れたい。
 
 ――そんなことを考えていた罰があたったのかもしれない。

 灯里は朝一番の顧客の対応履歴を確認していた。

 スタッフは研修を終えると家電、食品、服飾全般について案内するが、なかでも灯里は美容用品について上司や顧客から絶大な信頼を勝ち得ていた。

 昔とった杵柄がおおいに役に立っている。

 上司から渡されたリストは少し難ありの顧客。
 コスメフリークであり、専門的な質問をしまくるので昨日デビューしたばかりのオペレーターが撃沈した。

『あなたじゃ話にならない、上席と代わりなさい』と言われ、新人に泣きつかれた清水が灯里にバトンを渡してきた。

 顧客の購買履歴をチェックする。
 見事に肌質、年齢がバラバラなものばかり。

 誕生日や連絡先、住所などからネットで検索してみたら顧客らしきアカウントを発見した。

 調べると、海外の高級コスメには一切触れていない。
 顧客が発信しているのは某ドラッグストアの商品ばかり。
 そして、そのストアの競合品を売っている国内メーカーを攻撃していることが見てとれた。

 姑息なことに、国内メーカーでも宣伝力を持ちブランディング能力に長けている大手はスルーである。

「これは真っ黒黒……」

 清水に検索結果を報告して対応を協議する。

「うーん、考えられるのはドラッグストアに雇われたインフルエンサーかな」

 清水が呟いた。
 灯里もそう思う。 

「けど、雇ってる方も幼いわよね。インフルエンサーちゃん、攻撃がチャチすぎる」

 みる人がみれば、コスメ全般を研究したわけではないのがわかる。

「ただ、みる目のある人がこんなサイト……失礼、顧客のホームページをみるかってところなんだよね」

「そうねぇ」

 コスメは気に入ってるインフルエンサーが薦めたものを買う、自分で検証したりしないという購買層が一定数いる。

 灯里達が推している客層に、インフルエンサーに心酔している客層が被るのだ。
 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品