【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

出会いはケアハウス8

 上司との会話を思い出して、灯里は苦笑した。

「そこまで下心がないつもりなんだけどなぁ」

 とはいえ、海保職員の実物を前にしたら、やはりときめくだろう。
 もしかすると、感極まって泣いてしまうかもしれない。
『がっつきません』と返事をしたものの、目をハートマークにして写真をねだったりサインをせがんだりしてしまいそうだ。

 ……ということは、モーションかけまくったことになるのだろうか。
 自分にとって海保はアイドルのようなものかもしれない。

「ま、でも。素敵な人は既に先約済みっていうのが世界のお約束だもの」

 運命の恋人と出逢うという期待はしていない。
 相手は独身で筋肉男子集団でおまけに安定の公務員。
 条件だけでイケメンに見えるというものである。
 むしろ、左手の薬指にリングをしていない方がおかしい。

 海保VS灯里。
 彼らの方が圧倒的に買い手市場だ。

 彼女の説を裏付けるように、何かのドキュメンタリーで映し出される彼らの伴侶は軒並みレベルが高い。少なくとも皆、読者モデルレベル以上なのだ。

「当然といえば当然かぁー。ドラマとか漫画のおかげで海保の人達、大人気だもんね」
 
 読モVS化粧していないと、目がなくなってしまう自分。 
 断然、無理。

 それでなくとも他人のために体を張っている人々。
 あえて危険なところ飛び込むという、かっこいい人達であるのだ。

 純粋に『彼らの癒しになりたい。彼らの背中を支えて、疲れた時には膝まくらして上げたい』というピュアピュア女子VS不純な自分。

 灯里だってピュアなほうを選ぶ。

 あるいはプロ彼女VS家事適当、仕事はそこそこ、収入はしょっぱい自分。

 我ながら、素敵女子に勝てるセールスポイントが全然見当たらない。

 おまけに合コンをしたら、ほかの女子に意中の男子を持っていかれる率一〇〇パーセントを誇る灯里である。

 灯里はレモンの輪切りに梅干しを和え、酢をたっぷりかけたサラダを食べたような顔になった。 

「……ま。いっか、慌てる旅じゃないし」

 出産適齢期を考えたら焦るべきなのかもしれないが。
 元々灯里はマイペース。
 今までの人生は周回遅れ。
 これから慌てたって仕方がない。

「私に彼氏ができるのが先か、ツチノコや埋蔵金が見つかるのが先か」

 ワクワク半分、今回もドタキャンされるんだろうなという予想が半分だ。

 それでもいい。
 今の灯里にはやることがある。

「待っててねー、『彼』のおばあちゃん達!」

 まずは合コンの前に、ケアハウスへのメイクボランティアだ。

 彼女は『彼』との約束通り、休みを取っては海の近くにあるケアハウスに訪れ、メイクのボランティアを行なっている。

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