アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第5章 〜 5 危機一髪(6)

 5 危機一髪(6)
 


 だから右手に触れる身体を必死に叩くが、〝うん〟とも〝すん〟とも反応がない。
「くそっ! 彼になにをしたんだ! おい、藤木さん! 藤木さん! 大丈夫か? 返事をしてくれ! 藤木さん!」
「藤木さんは死んじゃいないさ、今のところはね……」
「こんなことして、ただで済むと思うなよ!」
「自分の状況ってやつをしっかり理解してから、声にして欲しいモンだよなあ!」
 林田はそう言いながら、靴底の踵辺りを翔太の額に押し付けた。さらにギリギリ擦り付けながら、さも愉快そうな声を上げる。
「お前さんのお友達の方は、さっき言ってくれたんだけどな、二度と変な気は起こしませんってよ。でも、残念ながら、お前さんの方がそうじゃないってんなら、こりゃあもう、仕方がねえってことだあな〜」
 ――おい、ドラム缶をふたつ、ここに持って来い!
 続いてそんな言葉を誰かに告げて、林田の靴は翔太の額からやっと離れた。
 ――本気なのか? 本当に、そんなことするのか?
 きっと千尋が警察に届けたとしても、さっさと捜索なんて始まらない。
「様子を見ましょう」なんて最悪のリアクションもあるだろうし、そうなったらもう助かる道はひとつだけってことになる。
 ――わかった! もう二度と、あんたらには近付かないって、約束するから!
 心で一回そう唱え、翔太はいよいよ声にしようと大きく息を吸ったのだ。
 ちょうどその時、闇夜が一気に驚くような変化を見せた。
 辺りが眩しいくらいに明るくなって、翔太は必死に顔を前後左右に動かしてみる。
 しかし何が起きたか分からない。
 ――くそっ! なんだよいったい!
 襲い来る恐怖に、彼は声を限りに叫ぶのだった。
「わかった! わかったから! ちょっと待ってくれって!!」

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