アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第5章 〜 5 危機一髪(2)

 5 危機一髪(2)



「そこんところを、しっかり解ってもらえれば、今日のところは、お帰り頂いても構わないんだがね……」
 ――で、どうする?
 男はいかにもそんな顔をして、達哉の顔を覗き込むような仕草を見せる。
 そこで一気に我に返って、達哉ははっきり声にした。
「はい! 解りました! すみませんでした!」
 思いっきり頭まで下げて、そのままジッと十数秒……。
 すると背中にあった手首の辺りに何かが当たって、急に左右の腕が自由になった。それでも微塵も動かずに、彼は次の言葉を待ったのだ。
 しかしいくら待っても何もない。ギュッとつぶっていた目を開けて、達哉はほんの少しだけ顔を上げてみた。
 ――え?
 するとそこに、あったはずの足がない。
 それでもっと顔を上げると、男はすでに消え去っていて、トイレと反対にある扉が開けっぱなしになっていた。
 ――帰って、いいってことかな……?
 恐る恐る扉の先を覗いてみると、テレビなんかで目にする工場のような空間が見える。
 達哉はゆっくり立ち上がり、その空間に向かって歩き出した。一番奥にはシャッターがあり、そのすぐ横には半開きになった扉が見えた。
 一日座っていたせいか、身体あちこち痛んだが、そんなことに構っている暇はない。
 いつなんどき、気が変わったなんて戻ってくるかも知れないと、彼は痛みを堪えて一気に走り出したのだった。
 うなぎの寝床のような空間を抜けて、半開きの扉を押し開ける。すると太陽光が差し込んで、すでに夕刻近いと知ったのだ。
 そうしてさらに、彼の自由もそこまでだった。
 さっきの男が目の前にいて、その隣にはハンバーガーを放って寄越した若い方まで立っている。
 そんな出現に驚いていると、ハンバーガーの方がササッと動いて、いきなり達哉の両肩を押さえ付けた。それから彼の身体を反転させて、そのまま元いた部屋まで押し戻されてしまうのだ。
 その間、ひと言だって声にはできない。
 ――なんだよ! 逃げていいんじゃなかったのか!?
 ――だったらどうして、縄を外したりしたんだよ!
 ――訳わかんねえよ!
 ――勘弁してくれってえ!
 身体中にそんな思いが駆け巡ったが、声にするにはあまりに恐怖がデカかった。

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