アナザー・デイズ 1977
第5章 〜 4 追跡(2)
4 追跡(2)
――こんな時に限って! どうしていないの!
片側二車線という幹線道路だから、車はひっきりなしに走っている。
なのにタクシーだけがいないのだ。
ところがなんという偶然か? そこでいきなり声が掛かった。
「おーい、なにやってんだあ〜」
慌てて声の方を見てみれば、少し離れたところに軽トラが停まって、助手席からヒラヒラと手を振る姿が目に入る。
その先に、見知った顔が確かにあった。
大山の店長がおどけた顔で、懸命に顔を覗かせていた。
仕入れからの戻りの途中、たまたま偶然、赤信号で停まっていたのだ。
千尋は慌てて助手席に乗り込み、
「店長!一生のお願い! ほら! 信号のとこに、おっきな外車が停まってるでしょ? あの黒いやつをお願い! このまま追っかけて欲しいの! 」
そう言いながら、彼の肩口を必死になって揺さぶった。
助手席に乗り込んだ途端目に入ったのが、信号手前で停車しているさっきの車。
キャンピングカーか? というくらいに大きな車体のせいで、頭ひとつは出っ張っていたからすぐ目に飛び込んだ。
しかし当然、返事は「ダメだ」に決まっている。
――これからずっとお金いらない! ずっとタダでバイトするから!
だからお願いと、すぐにそう続けようとした千尋に向けて、鳥取県、大山町生まれだというこの男、なんとも粋な返事を返すのだった。
「お! 〝太陽にほえろ〟ごっこか!? よしゃ! まかせとき!」
あと一時間ちょっとで開店時刻だ。
なのに彼はなんとも明るい声を千尋に返した。
心配になってその辺りを尋ねると、彼は笑いながらに言うのである。
「ウチはチェーン店とかじゃねえんだから、一日くらい開店が遅れたからってどうってことねえさ。それよりよ、千尋ちゃんみてえによく働くバイトを失っちゃう方が、よっぽど痛いってことだあ〜な〜」
そう言ってから、「まあ見てろ、こう見えて地元じゃ昔、そこそこ名の通った走り屋だった」と続けて、信号が青になった途端、大きな空吹かしをしてみせた。
そうして実際、次の赤信号で停まった時には、たった車数台先にあの車がいたりする。
「ここから先は、このくらいの距離をキープで着いて行こうかね〜」
店長はそう言って、千尋に向かって笑顔を見せた。
きっと、そこそこ危ない感じは悟っているはずだ。
日本じゃ滅多にお目にかかれない大型サイズのワゴン車に、スモークガラスで車内は完全に真っ黒けっけ。そんなのを追って欲しいと言われたら、少なくとも彼氏なんかの車じゃないってすぐ分かるだろう。
それでもなんにも聞いてはこない。
前の車がなんなのか?
いったい何があったのか?
きっと千尋が話してくるのを、今か今かと待っているのだ。
――ごめんね、店長! 今はまだ話せない!
説明しようにも、何がどうなったのか、千尋自身がまるで分かっちゃなかった。
ただとにかく、今は翔太のことが一番大事だ。
――彼までいなくなっちゃったら……?
そうなればもう、いよいよ警察に出向くしかない。
――お願い、早く停まって!
車はすでに横浜市を過ぎて、横須賀方面へと向かっている。
「ごめん、お店、遅くなっちゃうね……」
「いいさ、いざとなったら、今日は休みにしちまうよ〜」
「本当にごめんなさい……」
「でも、あれだなあ〜 どこまでいきやがるんだ? このまま行くと、三浦の方まで行っちゃうぜ」
そんな言葉からそうかからずに、車は有料道路を降りて一般道に入っていった。
――こんな時に限って! どうしていないの!
片側二車線という幹線道路だから、車はひっきりなしに走っている。
なのにタクシーだけがいないのだ。
ところがなんという偶然か? そこでいきなり声が掛かった。
「おーい、なにやってんだあ〜」
慌てて声の方を見てみれば、少し離れたところに軽トラが停まって、助手席からヒラヒラと手を振る姿が目に入る。
その先に、見知った顔が確かにあった。
大山の店長がおどけた顔で、懸命に顔を覗かせていた。
仕入れからの戻りの途中、たまたま偶然、赤信号で停まっていたのだ。
千尋は慌てて助手席に乗り込み、
「店長!一生のお願い! ほら! 信号のとこに、おっきな外車が停まってるでしょ? あの黒いやつをお願い! このまま追っかけて欲しいの! 」
そう言いながら、彼の肩口を必死になって揺さぶった。
助手席に乗り込んだ途端目に入ったのが、信号手前で停車しているさっきの車。
キャンピングカーか? というくらいに大きな車体のせいで、頭ひとつは出っ張っていたからすぐ目に飛び込んだ。
しかし当然、返事は「ダメだ」に決まっている。
――これからずっとお金いらない! ずっとタダでバイトするから!
だからお願いと、すぐにそう続けようとした千尋に向けて、鳥取県、大山町生まれだというこの男、なんとも粋な返事を返すのだった。
「お! 〝太陽にほえろ〟ごっこか!? よしゃ! まかせとき!」
あと一時間ちょっとで開店時刻だ。
なのに彼はなんとも明るい声を千尋に返した。
心配になってその辺りを尋ねると、彼は笑いながらに言うのである。
「ウチはチェーン店とかじゃねえんだから、一日くらい開店が遅れたからってどうってことねえさ。それよりよ、千尋ちゃんみてえによく働くバイトを失っちゃう方が、よっぽど痛いってことだあ〜な〜」
そう言ってから、「まあ見てろ、こう見えて地元じゃ昔、そこそこ名の通った走り屋だった」と続けて、信号が青になった途端、大きな空吹かしをしてみせた。
そうして実際、次の赤信号で停まった時には、たった車数台先にあの車がいたりする。
「ここから先は、このくらいの距離をキープで着いて行こうかね〜」
店長はそう言って、千尋に向かって笑顔を見せた。
きっと、そこそこ危ない感じは悟っているはずだ。
日本じゃ滅多にお目にかかれない大型サイズのワゴン車に、スモークガラスで車内は完全に真っ黒けっけ。そんなのを追って欲しいと言われたら、少なくとも彼氏なんかの車じゃないってすぐ分かるだろう。
それでもなんにも聞いてはこない。
前の車がなんなのか?
いったい何があったのか?
きっと千尋が話してくるのを、今か今かと待っているのだ。
――ごめんね、店長! 今はまだ話せない!
説明しようにも、何がどうなったのか、千尋自身がまるで分かっちゃなかった。
ただとにかく、今は翔太のことが一番大事だ。
――彼までいなくなっちゃったら……?
そうなればもう、いよいよ警察に出向くしかない。
――お願い、早く停まって!
車はすでに横浜市を過ぎて、横須賀方面へと向かっている。
「ごめん、お店、遅くなっちゃうね……」
「いいさ、いざとなったら、今日は休みにしちまうよ〜」
「本当にごめんなさい……」
「でも、あれだなあ〜 どこまでいきやがるんだ? このまま行くと、三浦の方まで行っちゃうぜ」
そんな言葉からそうかからずに、車は有料道路を降りて一般道に入っていった。
コメント