アナザー・デイズ 1977
第5章 〜 3 偶然(2)
3 偶然(2)
――てめえ、この野郎!
――なに乗車拒否してやがるんだ!
――さっさと乗せろ!
――この野郎!
だいたいがこんな感じの文言で、見事にその〝見てくれ〟とバッチリハマった。
そうしてやっと青になるのだ。
そこで男に向かって笑顔を見せて、彼はゆっくり車をスタートさせる。
当然、男は更なる大声で喚き散らし、車から離れまいと必死になった。そんな姿を確認し、横断歩道から十メートルほど離れたところで停車する。
それから、ちょうど追い付いた男の為にドアをゆっくり開けるのだ。
そうして後部座席に顔を突っ込んできた男に向けて、安藤は笑顔で告げるのだった。
「お客さん、すみませんね〜 横断歩道の付近は乗せちゃいけないもんで〜」
――だから横断歩道を越えてから乗せようと思った。
そう声にして、彼はさっさと前を向いた。
もちろん男はそんな言葉に納得しよう筈もない。ガアガアと文句を言いながら、それでも後部座席に乗り込んでくる。
「さあて、お客さん、どちらに参りましょうか〜? もしも観光なら、わたしにすべてお任せくださいよ」
「ばかやろう! もう夕方だってのに、観光のわけねえじゃねえか!」
「ああ、じゃあ、お仕事ですか〜 そりゃあご苦労さまでえ〜」
なんとも拍子抜けするその言いように、男の怒りもそこまでだった。
「まったくよう! 〝てえ〟上げたらすぐ止まれってんだ! このクソ親父!」
なんてのを最後に、男はぶっきらぼうにホテルの名前を挙げるのだった。
「お客さん、そこはこの辺りじゃ、一番高級なホテルですよ〜」
「まあな、そりゃあ上から言われて来たんだから、そのくれえはよ、当たり前よ」
すでに機嫌は直ったようで、男はそこからいろんなことを話し出した。
今日は部下だった奴に、わざわざこんなところまで会いに来てやった。
東京生まれの自分からすれば、こんな田舎に住む野郎の気が知れない……などなど、それ以外にも話していたが、だいたいが自慢話か、世の中に向けての悪態ばかりだ。
ただとにかく、そんな男との再会だった。
「林田」と叫んだ若い男がまさにそいつで、きっと車から降りて来たのが彼の言うところの上司だろう。
二人はさっさと車に乗り込み、更に上を目指して走り去ってしまった。
だからと言ってこの時は、ただそれだけのことだった。
ところがそれから、ふた月ほどした頃……男たちを見掛けた山から更に奥へ入り込んだ山間で、若い男の死体が発見される。
――てめえ、この野郎!
――なに乗車拒否してやがるんだ!
――さっさと乗せろ!
――この野郎!
だいたいがこんな感じの文言で、見事にその〝見てくれ〟とバッチリハマった。
そうしてやっと青になるのだ。
そこで男に向かって笑顔を見せて、彼はゆっくり車をスタートさせる。
当然、男は更なる大声で喚き散らし、車から離れまいと必死になった。そんな姿を確認し、横断歩道から十メートルほど離れたところで停車する。
それから、ちょうど追い付いた男の為にドアをゆっくり開けるのだ。
そうして後部座席に顔を突っ込んできた男に向けて、安藤は笑顔で告げるのだった。
「お客さん、すみませんね〜 横断歩道の付近は乗せちゃいけないもんで〜」
――だから横断歩道を越えてから乗せようと思った。
そう声にして、彼はさっさと前を向いた。
もちろん男はそんな言葉に納得しよう筈もない。ガアガアと文句を言いながら、それでも後部座席に乗り込んでくる。
「さあて、お客さん、どちらに参りましょうか〜? もしも観光なら、わたしにすべてお任せくださいよ」
「ばかやろう! もう夕方だってのに、観光のわけねえじゃねえか!」
「ああ、じゃあ、お仕事ですか〜 そりゃあご苦労さまでえ〜」
なんとも拍子抜けするその言いように、男の怒りもそこまでだった。
「まったくよう! 〝てえ〟上げたらすぐ止まれってんだ! このクソ親父!」
なんてのを最後に、男はぶっきらぼうにホテルの名前を挙げるのだった。
「お客さん、そこはこの辺りじゃ、一番高級なホテルですよ〜」
「まあな、そりゃあ上から言われて来たんだから、そのくれえはよ、当たり前よ」
すでに機嫌は直ったようで、男はそこからいろんなことを話し出した。
今日は部下だった奴に、わざわざこんなところまで会いに来てやった。
東京生まれの自分からすれば、こんな田舎に住む野郎の気が知れない……などなど、それ以外にも話していたが、だいたいが自慢話か、世の中に向けての悪態ばかりだ。
ただとにかく、そんな男との再会だった。
「林田」と叫んだ若い男がまさにそいつで、きっと車から降りて来たのが彼の言うところの上司だろう。
二人はさっさと車に乗り込み、更に上を目指して走り去ってしまった。
だからと言ってこの時は、ただそれだけのことだった。
ところがそれから、ふた月ほどした頃……男たちを見掛けた山から更に奥へ入り込んだ山間で、若い男の死体が発見される。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
55
-
-
157
-
-
1978
-
-
4
-
-
4
-
-
1
-
-
2
-
-
516
-
-
768
コメント