アナザー・デイズ 1977
第5章 〜 1 決意(3)
1 決意(3)
高校時代の同級生、そいつの兄貴が林田商事に――金融の方かも知れないが――関係している。さらにその兄貴とは、施設長と林田が呼び付けていた……チンピラ連中のひとりなのだ。
――もう、決まりじゃんか……。
そうして数秒、もしかしたら十秒くらいは経っていたのかも知れない。
「おい、にいちゃんよ、何かようか?」
いきなり頭上から声が掛かって、達哉は慌てて上を見上げる。
すると二階の階段踊り場から顔だけ出して、男が達哉のことを見下ろしていた。それも真っ黒なサングラスを鼻先まで下ろし、そこから覗いている両目がなんとも言えず恐ろしい。この時、咄嗟に声にしてしまった。
「あの、金城さん、金城さんが、ここに入っていったんで……」
「おお、金城の知り合いかあ? よっしゃ、ちょっと待ってろ」
男はそう言って、すぐに顔を引っ込める。
――金城、お前の知り合いが、下にいんぞ!
――知り合いっすか? え? 誰だろ?
――いいから早く行けって! ドン!
扉が開けっ放しなのだろう。
そんな会話が聞こえて、「ドン!」というのは明らかに、
――足で、扉を蹴った音だ!
なんて思ったところでお終いだった。
気付いた時には走り出し、さっさと歩道に逃げ出している。そこからあっという間にさっきの喫茶店に飛び込んで、ホットコーヒーと告げるや否や、
「すみません、トイレ、貸してください!」
と声にして、彼は教えて貰ったトイレの個室に駆け込んだ。
林田の父親はビルをいくつも持っていて、そんな父親のお陰であいつは好き勝手やっても生きていけてる。きっと今頃は出所して、のうのうと生活しているのだろうと、なんとも悔しげに翔太は言った。
「どうしてそんなに、俺のことを詳しく知っているのか、教えてくれ……」
千尋の部屋で、そんなふうに告げられて、慌てて翔太へ告げたのだった。
「まだもうひとつ、大事なことが残ってますから……」
そこからは、施設時代の辛い経験を捲し立て、
「荒井さんと絵里香ちゃんのためにも、このままってわけにはいかないでしょう? 実は僕、つい先日、林田商事って会社を見つけたんです。これって、あの林田と関係あったりするんじゃないかと……」
やはり達哉の思った通りで、翔太はすでにすべてを知っていた。
「商事だ金融だって言ったって、やってることは暴力団と変わらない。あんなところがどうして、養護施設の運営に関わっているのかが、今でも不思議でたまらないんだ……」
達哉が〝けしかける〟以前から、翔太なりに少しは調べていたらしいのだ。
ところが達哉の方には、まるでそんな記憶は残っていない。
――やっぱり、以前とは少しずつ変化しているのかも?
翔太の生涯を知る達哉の存在が、彼の今にも影響を与えているから、かもしれない。
ただとにかく、ノートを預かっていた少年のお陰で警察が本腰を入れ始め、一度は林田の逮捕へと繋がったのだ。
だから施設長らの悪事を暴くとするなら、やはり荒井のノートを見つけるのが一番だろうと、翔太が養護施設に出向いてみようということになる。
「ダメだったらその時はその時だ。とにかく、まずは荒井が書き残したっていうノートを探すことから始めてみよう!」
翔太は達哉にそう告げて、完全に気の抜けたビールをなんとも旨そうに飲み干した。
高校時代の同級生、そいつの兄貴が林田商事に――金融の方かも知れないが――関係している。さらにその兄貴とは、施設長と林田が呼び付けていた……チンピラ連中のひとりなのだ。
――もう、決まりじゃんか……。
そうして数秒、もしかしたら十秒くらいは経っていたのかも知れない。
「おい、にいちゃんよ、何かようか?」
いきなり頭上から声が掛かって、達哉は慌てて上を見上げる。
すると二階の階段踊り場から顔だけ出して、男が達哉のことを見下ろしていた。それも真っ黒なサングラスを鼻先まで下ろし、そこから覗いている両目がなんとも言えず恐ろしい。この時、咄嗟に声にしてしまった。
「あの、金城さん、金城さんが、ここに入っていったんで……」
「おお、金城の知り合いかあ? よっしゃ、ちょっと待ってろ」
男はそう言って、すぐに顔を引っ込める。
――金城、お前の知り合いが、下にいんぞ!
――知り合いっすか? え? 誰だろ?
――いいから早く行けって! ドン!
扉が開けっ放しなのだろう。
そんな会話が聞こえて、「ドン!」というのは明らかに、
――足で、扉を蹴った音だ!
なんて思ったところでお終いだった。
気付いた時には走り出し、さっさと歩道に逃げ出している。そこからあっという間にさっきの喫茶店に飛び込んで、ホットコーヒーと告げるや否や、
「すみません、トイレ、貸してください!」
と声にして、彼は教えて貰ったトイレの個室に駆け込んだ。
林田の父親はビルをいくつも持っていて、そんな父親のお陰であいつは好き勝手やっても生きていけてる。きっと今頃は出所して、のうのうと生活しているのだろうと、なんとも悔しげに翔太は言った。
「どうしてそんなに、俺のことを詳しく知っているのか、教えてくれ……」
千尋の部屋で、そんなふうに告げられて、慌てて翔太へ告げたのだった。
「まだもうひとつ、大事なことが残ってますから……」
そこからは、施設時代の辛い経験を捲し立て、
「荒井さんと絵里香ちゃんのためにも、このままってわけにはいかないでしょう? 実は僕、つい先日、林田商事って会社を見つけたんです。これって、あの林田と関係あったりするんじゃないかと……」
やはり達哉の思った通りで、翔太はすでにすべてを知っていた。
「商事だ金融だって言ったって、やってることは暴力団と変わらない。あんなところがどうして、養護施設の運営に関わっているのかが、今でも不思議でたまらないんだ……」
達哉が〝けしかける〟以前から、翔太なりに少しは調べていたらしいのだ。
ところが達哉の方には、まるでそんな記憶は残っていない。
――やっぱり、以前とは少しずつ変化しているのかも?
翔太の生涯を知る達哉の存在が、彼の今にも影響を与えているから、かもしれない。
ただとにかく、ノートを預かっていた少年のお陰で警察が本腰を入れ始め、一度は林田の逮捕へと繋がったのだ。
だから施設長らの悪事を暴くとするなら、やはり荒井のノートを見つけるのが一番だろうと、翔太が養護施設に出向いてみようということになる。
「ダメだったらその時はその時だ。とにかく、まずは荒井が書き残したっていうノートを探すことから始めてみよう!」
翔太は達哉にそう告げて、完全に気の抜けたビールをなんとも旨そうに飲み干した。
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