アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第4章  〜 4 修正

 4 修正
 


 電話で、ただ辞めるとだけ……告げればいい。
 これが絶対ベストだと、達哉と千尋が翔太に向けて告げたのだ。
 しかしどうにも納得しない。
 今後どうなる筈だったかは別として、これまで世話になった事実を無視できないと、翔太はその為だけに店に出た。そして……、
 ――わがまま言って申し訳ないが、事情があって店を辞めたい。
 そんな感じを一生懸命声にして、これ以上ないくらいに山代の前で頭を下げた。
 すると意外な程にあっさりと、山代はその申し出を受け入れる。
「今日からか、そりゃあえらく急だな、まあよ、元々さ、こんな店、二人もいらねえんだよな。余計なメニューを考え直せば、充分、俺一人でもやっていけるさ」
 などと言い、さらに翔太の今後についても聞いてきた。
 達哉と打ち合わせた通りに返事をすると、
「そうか……学校に通うのか、そりゃあいい、いい考えだ……」
 妙にしんみりした感じで翔太を見つめ、
「お前さんはさ、頭いいから、大学だって夢じゃねえって」
 そう言った後、「頑張んな……陰ながら、応援してっから」と声にして、さっさとカウンターの中に入ってしまった。
 文句の一つや二つは覚悟していた。
 ――ばかやろう! 急になに言ってんだ! 
 くらいのことは言われるだろうと、普段の山代からしてそう決めつけていた。
 ところが予想とあまりに違って、翔太の中でいきなり何かが変化する。
 熱い感情が込み上げて、気付けば声になっていた。
「あの、わたしの母親は、天野由美子って言うんです。そして以前は、飯田姓を名乗ってました。飯田由美子、元、看護婦です」
 一瞬、何を言っている? そんな顔を見せつつ、彼は天井の方へ目を向けた。それからゆっくり腕を組み、ふた呼吸ほどした時だった。
「由美子……飯田由美子か!?」
 上を向いたままそう言って、妙にゆっくり翔太の方へその顔を向けた。
「はい、飯田由美子と名乗っていました……あることが、起きるまでは……」
「じゃあ、まさか、あの時の……?」
「あの時? ですか?」
「いや、なんでもない。なんでもないんだ」
 山代はそう言った後、唐突に背中を向ける。それから右手を高々上げて、ヒラヒラと大きく二、三度振った。

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