アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第4章  〜 1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン(8)

 1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン(8)



 さあて、ここからが本当の勝負の時間……。
「はい、かなりの部分、知っていると思います」
「で、胃が弱いことも、当然知っていると……」
「はい、そのせいで将来、どんな病気になってしまうとか、他にも、実はいろいろと知っています。これから起きる大変なこととか……」
 そこで翔太はビールジョッキに手を伸ばし、残っていたビールを一気に飲み干す。それからフーと息を吐き、空になったジョッキを見つめ、声にするのだ。
「あなたさ、いったい誰なの?」
 ――どうして、そんなことを知っている?
 その顔がまさに、そう告げていた。突き刺すように厳しい目付きで、まるで睨みつけるようにして達哉の返事を待っている。
 達哉はこの時、ほんのちょっとだけムカついた。
 ――なんでそこまで睨むんだよ!
 なんて感じて、フッと魔が差したのだ。
 決して悪意的なものじゃない。
 それでもそこそこ強烈に、対抗する感情が湧き起こる。
 彼は心に強く思うのだった。
 ――睨みつける相手は、俺じゃないだろう!
 不思議なくらい唐突に、用意していたストーリーが吹っ飛んだ。
 そして最後の最後に用意していたセリフが、一気に達哉の口から溢れ出る。
「天野さんさ、中学ん時、施設にいたでしょ?」
 たったこれだけで、翔太の目付きがグラついたのだ。
 ――なんだ、施設のことは聞いてないんだ……。
 そう思った途端、達哉の感情は一気に高ぶり、言葉が次から次へと止まらなくなった。
「天野さん、施設で色々あったじゃないですか? もちろん、天野さんが悪いわけじゃないんだけど、屋上から飛び降りちゃったり、しましたよね? で、その時、一緒だった荒井くん、覚えてます? 覚えてますよね? 忘れるはず、ないもんね……それから、十三歳で自殺した生田絵里香さんのことも、当然、覚えているでしょ? ねえ、どう思っているんです? この二人の仇を、いいかげん、打ってやりたいと思いませんか? 林田や施設長は今だって、何も変わらずやりたい放題やってるんですよ……」
 ここでゆっくり翔太の視線が達哉から外れた。
 と同時に、その隣に座る千尋の顔も視界の隅っこで大きく揺れる。
「天野さん、俺はね、あんな奴らを許しちゃおけない……。絵里香のことはもちろんだけど、荒井だって、ちゃんとしようと、彼女と一緒に真面目に生きようとしてたんだ。それをあいつら、何から何まで、好き勝手やりやがって……くそっ!」
「ちょっと、ちょっと待ってくれ……それって、え? なんで? おかしいだろう……まさか、施設にいたのか? 千尋と、おんなじ歳だよな? え? いたのか? あそこに、あんたもいたってのか!?」
「名前は忘れちゃったけど、施設で同室だった少年を探したらどうでしょう? 彼がまだノートを持っていれば、あいつらをギャフンと、言わせることができるんじゃないでしょうか?」
 どうしてこんなことを言い出したのか、話しているうちにあの頃の記憶が蘇り、達哉はまさしく興奮していた。
「でもね、天野さん、その前に、やらなくちゃいけないことがあるんだ。それは林田や施設長とおんなじくらい、いや、それ以上に最低最悪なヤツへの復讐ですよ!」
 酔っ払っていたのか? 
 はたまた彼との時間に興奮したのか?
 ただ、どうだったにせよ、この突発的な発言は、それなりに効果絶大だった。

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