アナザー・デイズ 1977
第3章 〜 4 本間千尋と(3)
4 本間千尋と(3)
達哉は突然立ち上がり、「いきなりなに?」って顔する千尋に向けて、
「ちょっと、トイレに行ってくる。戻ってきたら、ぜんぶ、洗いざらい話すから、ちょっと待っててください」
そう言ってから、居酒屋のトイレに駆け込んだ。
肩に掛けっぱなしだったバッグの中を弄って、ゴチャゴチャの中からノートを探す。
――あった……。
万一のために、なんて思って入れておいたノートを取り出し、達哉は再び千尋の元に戻っていった。黙ったままノートを差し出し、千尋がノートを手に取ってやっと、彼は泡が消え去ったビールをひと口ゴクンと飲んだのだ。
そうして再び千尋の方に目をやって、彼は不思議な光景を目の当たりにする。
――そこじゃないよ!
まずはそう思って、そのまま声にしかけた時だ。
――ん? 何か、書いてあるのか?
必死に何かを読んでいる。
それもノートの真ん中辺り。
――あれは、最後のページに書いてあった筈だ。
そしてそこ以外には、なんにも書かれていなかった……。
――俺はちゃんと、前の方のページだって、確認、した……よな?
そんなことを次々思って、それでも何も言えずに見ていると、なんと千尋がさらにページを一枚捲った。
となれば、そこには何かが書かれてる? だからって、「何が書いてある?」とも聞けないし、達哉の心は焦りに焦ってしまうのだった。
ただただジッと彼女を見つめて、そのまま三分くらいが経った頃、千尋は結局五回もノートを捲っていた。
そうして勢いよくパタンとノートを閉じて、彼女は静かな声を出したのだ。
「これってさ、いったい何? もし、ジョークとかのつもりだったら、わたし絶対、あなたを許さない……」
そう告げて、視線をゆっくり達哉へ向けた。
だから慌ててノートを手にして、達哉は千尋が見ていた辺り目を向けた。
――なんだよ! これって……?
ノートの最初から、十数ページ捲った先に文字がびっしり並んでいた。
そこから六ページに渡っていて、どう見たって天野翔太の書いたものだ。
あの日、ノートに書かれた彼の言葉を読んだ後、確か達哉は一回ノートを閉じたのだ。
――それでノートをひっくり返して、最初の方のページをちゃんと確認した筈だ。
それでもきっと、一ページか二ページ見ただけでさっさとノートを閉じたのか?
ところがそれより先に、天野翔太は更なる何かを書いたのだ。
――何を、書いたんだ……?
そんな疑問が当然浮かぶが、視界の隅っこに映っている顔がより気になった。だからとにかくノートを閉じて、見せたかったページを開いて千尋の前に差し出した。
すると彼女は即行ノートを手に取って、息を潜めて開かれたページに目を向ける。
〝藤木達哉 様〟
〝最後の最後で、最高の時間をプレゼントされた気分です〟
〝あなたが戻って来るのかは分かりませんが、とにかく、心から感謝いたします〟
〝ご両親を、大切にしてくださいね〟
〝本当に、ありがとうございました〟 〝天野翔太〟
達哉は突然立ち上がり、「いきなりなに?」って顔する千尋に向けて、
「ちょっと、トイレに行ってくる。戻ってきたら、ぜんぶ、洗いざらい話すから、ちょっと待っててください」
そう言ってから、居酒屋のトイレに駆け込んだ。
肩に掛けっぱなしだったバッグの中を弄って、ゴチャゴチャの中からノートを探す。
――あった……。
万一のために、なんて思って入れておいたノートを取り出し、達哉は再び千尋の元に戻っていった。黙ったままノートを差し出し、千尋がノートを手に取ってやっと、彼は泡が消え去ったビールをひと口ゴクンと飲んだのだ。
そうして再び千尋の方に目をやって、彼は不思議な光景を目の当たりにする。
――そこじゃないよ!
まずはそう思って、そのまま声にしかけた時だ。
――ん? 何か、書いてあるのか?
必死に何かを読んでいる。
それもノートの真ん中辺り。
――あれは、最後のページに書いてあった筈だ。
そしてそこ以外には、なんにも書かれていなかった……。
――俺はちゃんと、前の方のページだって、確認、した……よな?
そんなことを次々思って、それでも何も言えずに見ていると、なんと千尋がさらにページを一枚捲った。
となれば、そこには何かが書かれてる? だからって、「何が書いてある?」とも聞けないし、達哉の心は焦りに焦ってしまうのだった。
ただただジッと彼女を見つめて、そのまま三分くらいが経った頃、千尋は結局五回もノートを捲っていた。
そうして勢いよくパタンとノートを閉じて、彼女は静かな声を出したのだ。
「これってさ、いったい何? もし、ジョークとかのつもりだったら、わたし絶対、あなたを許さない……」
そう告げて、視線をゆっくり達哉へ向けた。
だから慌ててノートを手にして、達哉は千尋が見ていた辺り目を向けた。
――なんだよ! これって……?
ノートの最初から、十数ページ捲った先に文字がびっしり並んでいた。
そこから六ページに渡っていて、どう見たって天野翔太の書いたものだ。
あの日、ノートに書かれた彼の言葉を読んだ後、確か達哉は一回ノートを閉じたのだ。
――それでノートをひっくり返して、最初の方のページをちゃんと確認した筈だ。
それでもきっと、一ページか二ページ見ただけでさっさとノートを閉じたのか?
ところがそれより先に、天野翔太は更なる何かを書いたのだ。
――何を、書いたんだ……?
そんな疑問が当然浮かぶが、視界の隅っこに映っている顔がより気になった。だからとにかくノートを閉じて、見せたかったページを開いて千尋の前に差し出した。
すると彼女は即行ノートを手に取って、息を潜めて開かれたページに目を向ける。
〝藤木達哉 様〟
〝最後の最後で、最高の時間をプレゼントされた気分です〟
〝あなたが戻って来るのかは分かりませんが、とにかく、心から感謝いたします〟
〝ご両親を、大切にしてくださいね〟
〝本当に、ありがとうございました〟 〝天野翔太〟
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