アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第3章 〜 3  説得(4)

 3  説得(4)



「あの、本間さんって、天野涼太さんの血液型、ご存知ですか?」
 すると千尋は、
 ――それがなんなのよ! 
 まさしくそんな表情になり、それでも首を左右に小さく振った。
「天野さんの血液型は、A型のはずなんです。それから、お母さん、天野由美子さんの方はB型。と、いうことは、父親である男性は、A型かAB型でなければならないんです。じゃないと、A型の彼は生まれないですから……」
 ここで少し間を置いて、千尋の反応を伺った。
 さっきまでの「それがなんなのよ!」から、「それって、どういうことなの?」って顔付きになって、少なくとも拒絶する印象は消え去っている。
「つまり、O型やB型の男が父親だと名乗り出ても、そいつは本当の父親じゃないってことになるんですよ」
「あの……何を言いたいのかよく分からないけど、ただね、今は少なくとも、彼のお父さんは行方不明だっていうんだから、もうそんなの、関係ないじゃない?」
「でも、もしも、すでに彼の前に現れていたら? それでそいつが、いきなり天野さんの父親だって名乗り出て、そのせいで、大変な災難に巻き込まれてしまったら?」
「大変な災難って、さっき言ってたやつですか?」
 ――借金を背負わされて、殺人罪で刑務所行きだよ。
「ところがそいつの血液型は、A型でもAB型でもない、O型なんだ。つまり、本当の父親なんかじゃありゃしない」
 ――わかるだろ? わかるよな? 
「ちょっといいです? あの、言ってる意味はわかります。わかりますけど、どうして、あなたがそんなことまで知ってるんですか?」
 ――ああ、そうだよ、そりゃあ、そうだけどさ!
「まずは、彼に聞いてみてください。彼と、彼のお母さんの血液型のことを……それで、僕のいう通りだったら連絡ください! さらに、もっと詳しく説明しますから!」
 そのかわり、自分のことは内緒にしてほしい。いずれきちんと説明するから、今日のことはしばらくの間、彼には伝えずにいてくれないか……。
 そう言い終わった時、千尋の顔には迷いがあった。
 信じていいのか悪いのか……そんな迷いと一緒に、やはり〝胡散臭い〟って気持ちが居座ってもいるだろう。
 だから真剣な顔のまま、達哉はさらに声を強めて告げたのだった。
「これに、僕が得するようなことは何もありません。ただただ、天野翔太さんのことを思ってって、ホント、それだけっすから……」
 するとすぐ、きっと何かを言おうとしたに違いない。
 スッと息を吸い込んで、彼女はそこでいっとき固まった。
 だからさらに聞かれる前に、彼は慌てて声にしたのだ。
「僕のウチの電話番号です。もし、血液型がその通りだったら、必ずこちらに連絡ください。次に会う時には、何が起きてしまうか詳しく説明しますから……」
 ポケットから電話番号の書かれた紙切れを取り出し、さっさと千尋の前に差し出した。
 そしてそれから、千尋はひと言も声を発しなかった。
 達哉が一方的にお詫びの言葉を声にして、部屋を後にしようと玄関に立っても、ジッと達哉の渡した紙切れだけを見つめていたのだ。

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