アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第3章 〜 2 千尋と翔太(6)

 2 千尋と翔太(6)
 


 ところがちょっと歩いたところで、思わぬ事実に気付いてしまう。
 ――あれって、さっき店にいた人だ……。
 たまたまか? 
 それにしたって、今、あそこにいるってことは……?
 千尋が出た後、すぐに会計したってことになる。さらにこの通りから先は住宅街で、俄然、人通りも少なくなるのだ。
 ――参った! 挨拶なんてするんじゃなかった!
 なんて大後悔を思いつつ、千尋は思いっきり早足でアパート目指して歩き出した。
 幸い何事もなくアパートに着いて、部屋の明かりを点けようとした時、
 ――まさか、居ないわよね?
 ふと、外の様子が気になって、そのままカーテンの脇にしゃがみ込んだ。ほんの少しだけカーテンの端っこを動かして、ドキドキしながらアパートの外へ目を向ける。
 すると男はやっぱり……そこにいた。
 前の通りに立っていて、視線は絶対アパートの二階に向いている。
 ――どうしよう?
 そう思った時だった。
 男が急に歩き出し、アパートの敷地内に入ってきたのだ。
 ――やだ!
 つまんでいたカーテンを離し、千尋は慌てて立ち上がる。
 武器になるようなものがないかと部屋を見回し、とりあえず買ったばかりのアイロン台を手に取った。
 男の力で本気になれば、こんなボロアパートの鍵なんてあっという間に壊される。
 だから玄関側に構えて立って、頭を思いっきりぶっ叩いてやる! なんて思っていたのだが、いつまで経っても階段の音さえしてこなかった。
 ――え? もしかして勘違い?
 かと言って、そう決めつけるのは早過ぎる。どうせくつろぐ気にはなれないし、そんな時にこそ、突然襲われたら対応だってできないだろう。
 だから千尋はそのままの体勢で必死に待った。
 終いには、アイロン台を持つ手がほとほと疲れて、
 ――ねえ! 来るんならチャッチャと来ちゃってよ!
 などとチラッとだけ思ったりもする。そうしていつまで待っても何も起きず、千尋はとうとうアイロン台を放り出した。
 それでもドアの外を確かめる気にはなれず、と言って寝てしまうのも恐ろしかった。
 ――あいつ、今度見掛けたら、絶対に許さないから!
 千尋はそう念じつつ、安物のカーテンを睨み付けた。

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