アナザー・デイズ 1977
第3章 〜 2 千尋と翔太(4)
2 千尋と翔太(4)
きっと彼なら、傘だってビックサイズだ。そんなのがちゃんと置き傘であって、閉店まで粘っていれば、彼なら絶対送ってくれる!
なんて目論見はバッチリ当たって、それも閉店よりもぜんぜん前に……だ。
「もういいって、客も来ないしよ、今日はもう、閉店にしようぜ……」
なんて突然マスターが言い出し、生ビール二杯で目的達成できたのだった。
そうしてアパートの階段下まで送ってもらい、二階にある自分の部屋に入った途端、あまりのショックに暫しその場で固まった。
――嘘……何よ、これって……。
なんて茫然自失の状態から、彼がいきなり現れて現実の世界へ引き戻してくれた。
「ひゃ〜、やっぱりなあ〜、こりゃ、酷いね〜」
驚いて振り返れば、天野翔太がすぐ後ろに立っている。そして千尋のさらに頭の上から彼女の部屋に目をやっていた。
「ほら、まだ見てないんでしょ?」
彼はそう言って、千尋に何かを差し出した。
それは大家さんからの伝言で、千尋の部屋の扉にもしっかり貼ってあったのだった。
――雨漏りが凄い。
――明日には直してもらうから、
――濡れて困るものは濡らさないように。
大体こんな感じがマジックで大きく書かれてあった……が!
――もう、部屋中びしょ濡れじゃないのよ!
天井のあっちこっちから、雨粒が連なり滴っている。
すでに部屋の片側半分が、まさに濡れ雑巾のようになっていた。
「どうしよう?」
思わず彼にそう言って、千尋が困った顔を見せた時だ。
「とにかく、濡れてるやつを端っこに寄せよう……でさ、入っても、いい?」
天野翔太はそう言って、千尋が頷いた時にはすでに動き出している。
それからひと通りの作業を終えて、無駄骨になるとは知りながら、バケツや茶碗なんかをあっちこっちに置いて部屋を出た。
そうして言ってくれたのだ。
「こんな時間からホテルってのも厳しいだろうし、もしよかったら、ウチに、くる?」
――え、いいの?
素直にそんな疑問を思っただけだったけど、きっと驚いた顔に見えたのだろう。
「あ! 違うって、俺はもちろん、店に行って寝るからさ!」
大きく手を振り、天野翔太は慌てたようにそう言った。
彼の部屋はアパートの端っこで、ぜんぜん雨漏りなんかしてないそうだ。
ところが千尋の真下にある部屋は、彼女の部屋以上にひどい状態になってるらしい。
「その部屋から大家さんに苦情が入ったらしいよ。それで今ちょうど、住んでる人が様子見に戻ってきててさ、きっと上もおんなじだろうって、教えてもらったんだ……」
それで慌てて千尋の部屋までやってきて、一緒にいろいろやってくれた。
だからと言って、千尋が彼の部屋で寝て、
――彼が店でって……?
訳には行くわけがない。
結果、いろいろ言い合って、入ってすぐある三畳ほどのキッチンと、畳の部屋との間をカーテンで仕切ってしまう……ってことに落ち着いた。
「俺がさ、台所の方で寝るからさ……」
そうしてコンビニまでガムテープを買いに出て、いざアパートへ戻ろうという時だった。
そこでふと、千尋がポツリと声にする。
「あの、一階と二階って、間取りはみんな、一緒ですか?」
フッと浮かんだ疑問が気になり、千尋はさっそく翔太に問うた。
「うん、さっき見た感じだと、少なくとも俺んとこは、おんなじだったな」
「ってことはね、トイレって、どこにあります?」
そう尋ねた途端、彼は一瞬横を向き、
「あ、そうか、やっぱり行く? 寝てからも、トイレ……行く、よね? やっぱり」
大きな傘を揺らしながら、そんなことをひと言ひと言、まるで一語一句確認するよう聞いてきた。
きっと彼なら、傘だってビックサイズだ。そんなのがちゃんと置き傘であって、閉店まで粘っていれば、彼なら絶対送ってくれる!
なんて目論見はバッチリ当たって、それも閉店よりもぜんぜん前に……だ。
「もういいって、客も来ないしよ、今日はもう、閉店にしようぜ……」
なんて突然マスターが言い出し、生ビール二杯で目的達成できたのだった。
そうしてアパートの階段下まで送ってもらい、二階にある自分の部屋に入った途端、あまりのショックに暫しその場で固まった。
――嘘……何よ、これって……。
なんて茫然自失の状態から、彼がいきなり現れて現実の世界へ引き戻してくれた。
「ひゃ〜、やっぱりなあ〜、こりゃ、酷いね〜」
驚いて振り返れば、天野翔太がすぐ後ろに立っている。そして千尋のさらに頭の上から彼女の部屋に目をやっていた。
「ほら、まだ見てないんでしょ?」
彼はそう言って、千尋に何かを差し出した。
それは大家さんからの伝言で、千尋の部屋の扉にもしっかり貼ってあったのだった。
――雨漏りが凄い。
――明日には直してもらうから、
――濡れて困るものは濡らさないように。
大体こんな感じがマジックで大きく書かれてあった……が!
――もう、部屋中びしょ濡れじゃないのよ!
天井のあっちこっちから、雨粒が連なり滴っている。
すでに部屋の片側半分が、まさに濡れ雑巾のようになっていた。
「どうしよう?」
思わず彼にそう言って、千尋が困った顔を見せた時だ。
「とにかく、濡れてるやつを端っこに寄せよう……でさ、入っても、いい?」
天野翔太はそう言って、千尋が頷いた時にはすでに動き出している。
それからひと通りの作業を終えて、無駄骨になるとは知りながら、バケツや茶碗なんかをあっちこっちに置いて部屋を出た。
そうして言ってくれたのだ。
「こんな時間からホテルってのも厳しいだろうし、もしよかったら、ウチに、くる?」
――え、いいの?
素直にそんな疑問を思っただけだったけど、きっと驚いた顔に見えたのだろう。
「あ! 違うって、俺はもちろん、店に行って寝るからさ!」
大きく手を振り、天野翔太は慌てたようにそう言った。
彼の部屋はアパートの端っこで、ぜんぜん雨漏りなんかしてないそうだ。
ところが千尋の真下にある部屋は、彼女の部屋以上にひどい状態になってるらしい。
「その部屋から大家さんに苦情が入ったらしいよ。それで今ちょうど、住んでる人が様子見に戻ってきててさ、きっと上もおんなじだろうって、教えてもらったんだ……」
それで慌てて千尋の部屋までやってきて、一緒にいろいろやってくれた。
だからと言って、千尋が彼の部屋で寝て、
――彼が店でって……?
訳には行くわけがない。
結果、いろいろ言い合って、入ってすぐある三畳ほどのキッチンと、畳の部屋との間をカーテンで仕切ってしまう……ってことに落ち着いた。
「俺がさ、台所の方で寝るからさ……」
そうしてコンビニまでガムテープを買いに出て、いざアパートへ戻ろうという時だった。
そこでふと、千尋がポツリと声にする。
「あの、一階と二階って、間取りはみんな、一緒ですか?」
フッと浮かんだ疑問が気になり、千尋はさっそく翔太に問うた。
「うん、さっき見た感じだと、少なくとも俺んとこは、おんなじだったな」
「ってことはね、トイレって、どこにあります?」
そう尋ねた途端、彼は一瞬横を向き、
「あ、そうか、やっぱり行く? 寝てからも、トイレ……行く、よね? やっぱり」
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