アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第2章 〜 4 真実(2)

 4 真実(2)



 結果、懲役十年という刑が確定。
 それでも彼は腐ることなく刑期を務め、模範囚として五年とちょっとで出所することができたのだった。
 そうして借金を返し終え、あっという間に癌に冒され、死んでしまう。最後の最後で愛する伴侶と巡り会うが、そんな出会いのお陰で、彼は驚きの真実を知ってしまった。
 
「O型って凄いんですよ!」
 そう言ってきたのは、かなり状態が厳しくなってきた頃だ。
 痛みの方はモルヒネのお陰で楽にはなるが、体力の方はどうしようもない。
 風呂に入るのもひと苦労で、翔太もいよいよ入院のことを覚悟し始めた頃だった。
 突然、驚くよう事実を聞かされ、そんな馬鹿な! と、何度も何度も思ったが、
「あなた、これはね、本当のことなの……今はもう、一般の人だって知ってることよ。まあ昭和の時代に、どう思われていたかは、正直、知らないけど……」
 そう言う妻の言葉はどう調べたって正しくて、つまりこれまでずっと、彼は騙され続けていたってことだ。
「だって、今は余程のことがないとしないでしょうけど、昔はね、他の血液型の人に輸血できたんですからね」
 ――どうして凄いのか? 
  そう尋ねると、即行そんな答えが返ってきた。
「他の血液型じゃできない、ってことか……」
「そうよ、あなたはA型でしょ? だから、あなたは輸血できないけど、いざとなったらね、わたしはあなたに輸血して、ちゃんと助けてあげられるわ」 
 だから血液型が違うってことは、〝カマキリ〟と〝バッタ〟くらいには、違う生き物って言えるんだと、真剣な顔で妻が翔太へ告げたのだった。
 ――血液型なんて、なんの影響も及ぼさない。
 テレビ番組を観ていて、そんなコメントにいきなり反応したのが妻だった。
 そして真相がどうであろうと構わなかったが、彼もそんな妻の反応にポツリと返した。
「そう言えば、俺の父親ってのも、確か、O型だったな……」
「そうなんだ、じゃあ、お母様がA型なのね?」
「いや、A型じゃないな……お袋は確か、B型だったよ」
「え? 嘘よ、それじゃあ、A型のあなたは生まれてこないわ」
 そこで急に笑顔になって、
「A型ってのが、違ってるんじゃない?」
「いや、病院で胃癌の検査を何度もしたしね、こればっかりは、間違いじゃないよ」
「じゃあ、あれよ、ご両親のどちらかが違うのよ。昔はね、結構いい加減に覚えていたらしいもの、血液型……」
 そこで間違いないって理由を話して聞かせ、
「いくらなんでも、母子手帳への記載は間違えないだろうし、父親の方もね、こっちも間違いようがないんだよ。亡くなった時にね、色々と、あったから……」
 そして彼は、逆に妻へと尋ね返した。
「その、A型が生まれないってのは、絶対なの? なんパーセントとかは、そんなこともあるとかさ、あるんじゃない?」
 そう言葉にすると、彼女は少し考えるように横を向き、視線を逸らしたままで呟くように声にした。
「わたしの元夫ってね、医者、というか、大学病院の研究員だったのね……」
 そこで再び翔太を見据え、だから結婚した頃は、様々な〝ウンチク〟を暇さえあれば聞かされたんだと続け、ほんの少しだけ口角を上げた。
「一応ね、血液が専門だったから。短い結婚生活だったけど、わたしもその辺に関しては医者並ってくらいに詳しいわ」
 B型とO型の両親からは、決してA型、AB型の子供は生まれない。
「ごめんなさい。でも、これって、本当のことなのよ」
 黙り込んでしまった翔太に向けて、彼女は言い方を変え、それが真実なんだと訴えた。
「もし、ご両親の血液型に間違いがないならば……きっと、ご両親のどちらかが、違うってことなんだと思うわ……」
 ――もしもそれが、父親の方だったなら?
 そう考えるだけで可笑しくて、なぜだか涙が溢れ出た。
 大声出して笑っていたが、目から涙が次から次へと流れ出る。
 何をどう考えようが、そう思うしかないからだ。借金も、殺人犯という濡れ衣も、すべてが意味ないものだった。
 ――あいつが父親じゃないのなら、俺はいったい、なんのために……?
 悔しくて、情けないほど腹が立ったが、今となってはどうしようもなかった。だからさっさと忘れてしまって、残り少ない時間を、楽しいものにしていきたい。
 翔太は無理矢理そう考えて、血液型の話を頭の隅へと追いやったのだ。

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