アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第2章 〜 3 決意

 3 決意



「おい、ちょっといいか?」
 そんな声が聞こえて、達哉は慌てて声にしたのだ。
「あ、ああ、どうぞ……」
 以前の彼なら確実に、シカト以外はなかったろう。
 しかし母親の態度などから推察するに、
 ――きっと親父とも、うまくやってたんだろうな……。
 そう考えて、いつか来るだろう〝ご対面〟を、彼はドキドキしながら待とうと思った。
 ところが戻ったその夜に、いきなり部屋にまで現れて、驚きの言葉を掛けてくる。
「今度、いつ行けるんだ?」
「え? 行けるって……?」
「なんだ、忘れちゃったのか? 約束しただろう……ゴルフだよ。今度はな、ちゃんと打ちっ放しに行って、練習していくからな、覚悟しておけよ!」
 たったこれだけ告げて、父、浩一は彼の部屋から立ち去った。
 ――なんだ、忘れちゃったのか?
 ――今度はな……?
 ――覚悟しておけよ!
 まさしく、驚くような言葉ばかりだ。
 大っ嫌いだった父親までが、達哉と仲良くなっている。
 ただの〝不良〟だったってだけじゃない。母親――父にとっての連れ合い――の、これまた大事な片目を失明させた……ってのにだ。
 ――何を、いったいどうしたら……?
 いくら考えたって、今の達哉に分かる筈がなかった。
 ただそんなのは、両親に限ってのことじゃない。大学からの帰り道、商店街で何人もの他人に声を掛けられ、達哉は驚きの事実をいくつも知るのだ。
「お! 今日は素通りしてくれるのか? 珍しいじゃんか!」
 なんて言ってきたのは、酒屋のクセにアル中だっていうどうしようもない二代目だ。
 そしてもちろん、なんのことだか分からないから、達哉は振り向いてもしばらく声の主をジッと見つめた。するといきなり手を振ってきて、
「タッちゃん! 違うって! 呑んでないって! 俺、呑んでねえのにさ、ぜんぜん入ってこないで、そのまま行っちゃおうとするから、だからさ、声掛けただけだって!」
 そう言ってから、頭をクシャクシャっと掻いて、顔までクシャッと笑顔になった。
 それからも、八百屋の親父や焼き鳥屋のおばちゃん、そしてさらに、魚屋の大将の言葉には驚き過ぎて呆然となった。
「おおい! 達ちゃんよ! なあ、最近は作ってないのかい? どうよこれ! いい〝ぶり〟が入ってるぜ!」
 突然、どこからか声が聞こえて、達哉が辺りをキョロキョロすると、
「おいおい、ここだって、どこ見てやがんだよ! まったく! 相変わらずお前さんってやつは、トコトン笑わせてくれるね〜」
 男は魚屋の端っこで、ビールケースに腰を掛け、タバコをプカプカやっている。
「俺はさ、客がいなけりゃよ、いつだってここでしょうが〜」
 さらにそう言ってから、ジッと達哉を見つめ、一旦クイっと首を傾げる。それからスックと立ち上がり、打って変わって戯けた感じで言ったのだった。

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